第33話ー⑦ 仲間

 暁とマリアは職員室に着くと、その辺にあるの椅子に腰を掛けた。


「なんだかここで二人きりだと、マリアが過去のことを打ち明けてくれた日のことを思い出すな」

「そうだね」


 あの時のマリアは、自分の能力とその能力のせいで不幸になるキリヤのことで悩んでいた。あれから1年半くらい経つ。本当にときの流れは早いものだ。


 そんなことを思い出しながら、暁は微笑んでいた。


「それで、話ってなんだ? やっぱりさっきのことか?」


 マリアはコクンと頷く。


「そうか」


 それは先ほどまで行われていたレクリエーションのこと。マリアはしおんに触れられたはずなのに、フェロモンの能力が発動しなかった――。


「私、能力が消失したのかなって」

「そう、かもな。年齢的に考えてもおかしな話じゃない。……どうする? 一応検査してみるか?」


 マリアは少し考えたのち、小さく頷いた。


「じゃあ今度の週末、俺と研究所に行こうか。ついでに剛と、会えたらキリヤたちの顔を見に行こうか」

「うん」


 そして暁とマリアは、今週末に研究所に行くことになったのだった。




 その日の晩。暁は自室のベッドで寝転びながら一日を振り返っていた。


「今日はいろんなことがあったなあ」


 まずはまゆおと真一の関係性の変化。まさか2人が肩を並べる日が来るなんてな。去年の2人からは想像もできなかったな。


 そんなことを思いながら、暁はくすっと笑っていた。


「やっぱり生徒たちの成長を直に感じられるのは嬉しいな。教師になって、本当に良かったよ」


 そして3人の転入生のそれぞれの能力と危なっかしさをふと思い出し、


「3人とも表面には出さないけれど、何かを秘めているように思うんだよな……。バトルをしているとき、別人格のような雰囲気があったし」


 不安な表情を浮かべてそう呟いていた。


 しおんはごく普通の高校生の雰囲気を持っているけれど、なぜか凛子にだけ食って掛かるところがある。なんだかむきになっているような……。


 そしてその凛子もしおんにだけは、なんだかあたりがきついようにも思うし。


 犬猿の仲ってやつなのかな? でもなんだかんだ2人はうまくやっていけるような気がする、と暁は思った。


「一番の問題は、織姫か……」


 結果的にレクリエーションには参加してくれたし、楽しんでいるようにも見えた。けどやっぱり俺に対しての不満はぬぐえないみたいだな――。


 そんなことを思い、「はあ」と小さくため息をつく。


「まあ気長に距離を詰めていくしかないか……。誤解も解かなくちゃならないし」


 そして暁が最後に思ったのはマリアの一件。


 長年マリアを苦しめてきた能力の消失の可能性が見えた。まだ確かなことはわからないけれど、もし能力の消失だとしたら、きっとマリアは今まで抱えてきたことすべてから解放されるんだろう――。


「マリアの能力がなくなっているといいな」


 暁はそんなことを願いながら、気が付いたら眠りに落ちていたのだった。

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