第32話ー⑥ 新学期
「転入生分のタブレットの用意はいいな。それで机の配置は……こんな感じか?」
職員室に戻った暁は今後の授業の準備を進めていた。すると、机に置いてあった暁のスマホが急に振動する。
スマホを手に取った暁は、その画面に表示されていた名前を見て、心を躍らせる。
「お! 奏多からか!」
暁は画面をタップして、その着信に応じた。
「もしもし、奏多? いきなりどうしたんだ?」
『先生、こんにちは。大したことじゃないんですが、ちょっとお伝えしたいことがあってお電話したんです!』
「伝えたいこと……?」
奏多の言葉を聞いた暁は、奏多がわざわざ電話してまで伝えたいことって一体何なんだろう。もしかしてすごく重要なことなんじゃ――とそんなことを考えていた。
『はい。4月から施設に転入生が来ますよね?』
「あ、ああ。3人、な」
『実は、その1人が私の従妹なんですよ。それでちょっと誤解があって……その子が先生のことをよく思っていないみたいなんです。だからもしかしたら、先生に会った時に迷惑をかけるかもしれないと思って』
奏多の話を聞いた暁は1人の生徒を思い出し、そういえば俺のことを露骨に嫌っている生徒が1人いたな――と心の中でそう思っていた。
「えっと。一応確認なんだが、その従妹の名前って……」
『本星崎織姫といいます』
やっぱりか……と思った暁は額に右手を当てて、初対面でいきなり向けられた織姫からの態度に納得をしていた。
(でも奏多の言う誤解って何なんだ……?)
ふとそう思った暁は、その理由を奏多に問う。
「なあ奏多。織姫は俺の何に誤解をしているんだ?」
暁のその問いに、電話越しの奏多は驚いた声を漏らす。
『え!? その口ぶり、もしかして……』
「ああ。ちょうど今日、施設に来たんだ」
苦笑いをしながら、そう答える暁。
『そうだったんですね……。それはご連絡が遅れてすみません』
「いや、いいんだ。……それで、織姫が誤解している内容って?」
『いえ、その……。先生が私とお付き合いしているという事が、母のせいで親戚中に知れ渡ってしまっておりまして。そしてどうやら織姫は、先生が私をたらしこんだと思っているようなんですよ』
「え!?」
織姫にそんな誤解をされていることも驚きだが、まさか神宮寺家の人たちに自分たちの関係の話が広がっているなんて――と暁はそう思った。
『すみません……。ちょっと我が強いところはありますが悪い子ではないので、どうか織姫のことをよろしくお願いします』
「ああ、わかった。他でもない奏多の頼みだからな! 任せてくれ」
暁は優しいトーンで奏多にそう告げた。そしてそんな暁の言葉を聞いた奏多は嬉しそうに答える。
『ふふ。頼りにしていますね、暁先生!』
「おう!」
それから暁と奏多は少しだけ言葉を交わした後に電話を切った。
「そうか、織姫は奏多の従妹だったのか……」
奏多との会話を終えた暁は顎に手を当てて、織姫のことを考えていた。
――織姫は奏多が屋上でバイオリンの演奏をしていたことを知っていたから、あの場所にいたのかもしれない。とりあえず奏多の言う誤解を解くのが先か、それとも俺のことをちゃんと知ってもらうのが先か。
暁はそんなことを延々と考えたが、結局どれだけ考えても良い答えを出せなかった。そして、
「うーん。まあ成り行きに任せるしかないか」
そう言ってから新学期の授業の準備を再開したのだった。
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