第28話ー⑤ 繋がる絆

 キリヤがカフェに到着すると、ゆめかは窓側の席で座って待っていた。


「遅れてすみません」

「いや。私も今来たところさ」


 ゆめかはそう言って優しく微笑んだ。


「それで、キリヤ君。話って何なんだい?」


 笑顔を崩さずゆめかはキリヤに問う。


 そしてその笑顔を見た時、キリヤはふと思った。


 襲撃事件とシロの帰還時期が同じなのは偶然なのか、と。


 もしかして、ゆめかさん。あなたが――


 それからキリヤはゆめかの正面に座り、ゆめかの顔をまっすぐに見つめて、


「本当は襲撃事件の真実を聞きにしたんですが、その前に一つだけ確認させてください」


 そう言った。


「構わないよ。何でも聞いてくれ」


 ゆめかは、顔色を一つ変えずにそう言った。


 僕の至った答えが合っているかどうかはわからない。でも、僕はどうしてもそれを確かめたいんだ――!


「ゆめかさん……あなたは幼いときにこの場所へ来ているんじゃないですか?」

「まあ、私もかつては能力者だったからね。その答えはイエスだよ」


 ゆめかは余裕そうな笑みを浮かべ、淡々とそう言った。


 あくまでも、自分から真実は話さないつもりなのか――


 ゆめかのその笑みを見て、キリヤはそう思う。


「では質問を変えますけど、ゆめかさんは『時間渡り』の能力を持っていましたよね?」

「ふふふ……。そうか。うん、自分でよくここまでたどり着いたね。さすが、所長が見込んだだけのことはある!」


 ゆめかはそう言いながら、嬉しそうに笑った。



「えっと、それはつまり……」


「そうさ。君の言う通り、私は『時間渡り』の能力があった。そして私は20年前、君たちと共にあの施設で過ごしていたよ」


「じゃあやっぱり、ゆめかさんがシロなんですね!!」


「ああ。それで、キリヤ君はどこまで先生から聞いたんだい?」



 ゆめかさんはニヤリとしながら、キリヤにそう問いかけた。


「僕が聞いたのは、シロの能力と過去から来たってことだけですね」

「そうか、そうか。……じゃあ今後のために、襲撃事件での君の見解を教えてもらえるかい?」


 キリヤは自分が知り得た情報から、内容を整理してゆめかに自らの見解を話し始める。



「シロは、あの事件の後に記憶を取り戻していますよね。だとしたら、あの事件はシロにとって必要な出来事だった」


「うんうん」


「だからゆめかさんは、事件の刺激をシロが受けやすいように僕と先生をあの施設から遠ざけた……ってところですか?」


「さすがだね、キリヤ君。正解だよ」



 ゆめかは笑いながら、キリヤにそう言った。


 そしてその答えを聞いたキリヤは、ほっと胸を撫でおろす。


「よかった……。ゆめかさんが襲撃犯の仲間なんじゃないかってずっと心配だったんですよ。でもやっぱりゆめかさんはゆめかさんだったんですね」


 キリヤは笑顔でゆめかにそう言った。


「誤解させてしまってすまなかったね。私が変に動くと歴史が変わってしまうかもしれなかったから、本当のことは言えなかったんだ」


 申し訳なさそうな顔でそう言うゆめか。


「いいんですよ! 僕は真実がわかっただけで満足です」

「ふふふ。君は相変わらず優しいね。ありがとう」


 ゆめかはそう言って笑った。


 そしてキリヤはゆめかのその笑った顔を見て、ある日のシロと重なる。


 やっぱりゆめかさんがシロなんだ――それはキリヤが改めてそう実感した瞬間だった。

 

「おや? もう話は終わったのかい?」


 そう言いながら、突然カフェに所長がやってきた。


「ちょうど種明かしが終わったところさ」

「そうか、そうか」


 何かを悟ったように頷く所長。


「もしかして所長は、知っていたんですか?」


 キリヤはそう言って首を傾げる。


「ああ、そうだよ。本当にすまなかった。君たちを出し抜くみたいなことをしてしまって」

「い、いえ! 僕は何も――」

「しかし、あの事件でけが人が出なかったのは本当に運が良かったよ。それも、キリヤ君の能力あってのことだろうね」


 所長はそう言って微笑んだ。


「そ、そんな……僕なんて」


 キリヤが照れながらそう言うと、ゆめかは茶化すように、


「実際そうなんだから、ここは喜ぶところだよ?」


 そう言いながらニヤニヤと笑った。


「は、はい……」


 それからキリヤは恥ずかしさで赤くなった顔を隠すように俯いた。そして所長とゆめかはそんなキリヤを見て終始笑っていたのだった。




 目的を終えたキリヤは研究所からの送迎車に乗って、施設に向かっていた。


 そしてキリヤは、いつものように窓から見える茜色の空を静かに見つめていた。


 春になったら、施設と研究所の往復で見るこの空とはお別れになるんだな。そして、小学生のころからずっといたあの場所とも――


「あと5か月、か……」


 ふと、そんな独り言を漏らすキリヤ。そう言いつつもキリヤの口角は少し、上がっていた。


 卒業は寂しい。でも、新生活は楽しみだ……もしかして奏多も、施設を卒業するときにこんな気持ちだったのかな――?


 そんなことを思いつつ、キリヤは微笑んでから窓の外をぼーっと見つめていたのだった。




「キリヤ君、到着しましたよ」

 

 そう言う運転手の男性の声を聞き、ぼーっとしていたキリヤは車が施設に着いたことを知った。


「今日はありがとうございました!」


 キリヤは運転手の男性にそう告げてから車を降りると、施設の敷地内へと向かう。


 そしてエントランスゲートに近づいたキリヤは、そこに人影を見つけた。


「誰だろう?」


 そう思いつつ、キリヤがエントランスゲートの前に着くと、


「おかえり!」


 そう言って、暁が笑顔で迎えた。


「先生? なんでここに?」

「いや。なんとなく、な」


 そう言って頭を掻く暁。そんな暁を見て、嬉しく思ったキリヤは、


「そっか。ありがとう、先生!」


 そう言って微笑んだ。


 それからキリヤは、暁と共に建物の中へ向かって歩き出す。


「先生。僕もシロに会ってきたよ。こんなに近くに答えがあったなんて、正直すごく驚いた」

「はは。そうだろう? 俺も真相を知ったときは驚いたんだよな!」


 そう言いながら暁は、笑顔でキリヤの方を向く。


「でも約束通り、ちゃんとシロに会えたね」

「ああ。きっと俺たちは『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』っていう力で、繋がっていく運命だったんだな!」


 繋がっていく運命、か。確かに、先生の言う通りかもしれない――


「……先生。僕たちがこれからどんな道を歩いて行ったとしても、僕はこれからもずっと先生の生徒だし、仲間で友達で家族だと思っているよ」

「どうしたんだ、いきなり?」

「うーん。なんだろうね!」


 キリヤは笑顔でそう答えたのだった。




 この先にどんな未来が待っているのか、それはきっと誰にもわからない。


 でも一つだけわかっていることは、交わり繋がった僕らの絆はどれだけ時間が経過しても決して消えることはないということ。


 運命によって繋がったその絆を、僕はこれからも大切にしていきたいな――



 

 そしてキリヤと暁はいつものように笑いあい、建物の中へと入っていったのだった。

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