第28話ー④ 繋がる絆
その日の夕食時。ようやく暁は施設に戻ってきた。
「シロは大丈夫だった?」
マリアは不安な表情で暁にそう問いかける。
そしてマリアのその問いに、
「ああ。幸せそうだったよ。それに、また必ずマリアと会えるように頑張るからって言っていたな」
暁は笑顔でそう答えたのだった。
「そっか。よかった……」
マリアはほっとした顔でそう言った。
とりあえず、シロは家族の元へ帰っていったってことだよね――
そんなことを思いながら、暁とマリアの会話を聞いていたキリヤ。
それから、
「先生、ちょっと」
キリヤはそう言って暁の隣に立った。
「ん? ああ、どうしたキリヤ?」
「あとで時間もらえない? 話があるんだ」
キリヤが真剣な顔でそう言うと、暁は「ああ」と笑いながら答えたのだった。
ゆめかさんとの約束はした。だからあとは、先生からシロのことを聞くんだ――!
それからキリヤはいつも通りに夕食を済ませて、食堂を後にしたのだった。
夕食後、職員室にて――
キリヤは優香に心配されつつも、大丈夫だよと言い、一人で職員室に来ていた。
職員室にはデスクの前でPCを操作する暁の姿があり、キリヤは「おまたせ」と言いながら、暁の傍にある椅子に腰を掛けた。
「――それで、話ってなんだ? また進路のことで悩みがあるのか?」
暁はそう言いながら、優しく微笑む。
「ううん。違うんだ。……その、シロのことで心配ごとと言うか」
「シロのこと、か」
困った顔でそう呟く暁。
「うん。この間、襲撃事件があったでしょ? 狙いがシロだったのなら、シロを施設の外に出すのは危険なんじゃないかって思って。それにシロの家族も……」
それから暁は腕を組み、少し考えてから口を開いた。
「そう、だよな。ごめんな、キリヤには真実を話しておくべきだったかもしれない」
「え、真実……?」
「ああ。実は、この時代にシロの家族はいないんだ」
「は?」
きょとんとするキリヤ。
この時代に家族はいない? それってどういうこと――?
「それじゃ、まるで……シロがこの時代の人間じゃないみたいな言い方じゃないか」
「ああ。そうだ。シロはこの時代の人間じゃない。シロは――20年前から来た人間だ」
暁はキリヤの顔をまっすぐに見てそう言った。
「え……!? それって、どういうことなの!?」
20年前? 先生は、何を言って――?
キリヤは動揺しながらそう思い、顎に手を当てて考えた。
「シロの能力さ。『時間渡り』って言って、違う時代に飛ぶことができる能力」
「『時間渡り』……」
キリヤは目を丸くしてそう言った。
まさか、シロにそんな能力があったなんて――
「シロはその力でこの時代に来てしまって、その時の能力の暴発がきっかけで記憶喪失になっていたみたいなんだ」
「それでシロは、記憶喪失になっていたんだね」
そう言いながら、頷くキリヤ。
「ああ。だからすべてを思い出したシロは、自分の能力で元の時代に戻っていったんだ」
そう言って微笑む暁。
そんな暁を見て、キリヤはふと不安を抱く。シロが元の時代に戻れたなんて、どこにそんな確証があるのか、と。
「でも先生。本当にシロが元の時代に戻れたかどうかなんてわからないでしょ!? もしもうまく戻れていなくて、どこかの時空を彷徨っていたら……」
キリヤは不安気な顔でそう言った。
僕たちにはシロが無事かどうか確認する術がない。それなのに、なんで先生はこんなに冷静なんだろう。シロのことを心配していないのだろうか――
そんなことを思うキリヤ。
「大丈夫だ。ちゃんとシロは帰れた。そして、今もちゃんと生きているよ」
暁は、優しい笑顔でそう答えた。
そしてその言葉にはっとしたキリヤは、
「もしかして、この時代にいるシロと会ったの?」
暁にそう尋ねた。しかし暁は、ニコニコ笑うだけでそれ以上は何も答えることはなかった。
キリヤには暁のその笑顔が、この時代のシロに会ったことを物語っているように見えていたのだった。
優香の言う通り、先生の行動には意味があったってことはわかったけど……この間から、ゆめかさんも先生も僕に直接真実を教えてくれないのはなんでだろう――
そう思いながら、俯くキリヤ。
僕だって、もう子供じゃない。だから知る権利はあるはずなのに……。なぜ2人は僕に何も教えてくれないのかな――
そしてキリヤは、拳を握る。それから顔を上げると、
「ねえ先生。シロとはどこで会ったの?」
暁の目を見て、そう尋ねた。
「……俺の口からは言えない。でも、キリヤもすぐにわかるさ」
「そんな、曖昧な答え――」
「キリヤももう子供じゃないんだろう? じゃあ、答えを求めるばかりじゃなくて、自分で導き出すことも覚えて行かないとな」
そう言って、暁はPCに視線を戻す。
「自分で導き出すって……」
キリヤはそう呟いてから、トボトボと職員室を後にした。
確かに先生の言う通りかもしれない。僕は先生に聞けば、何でも答えが返ってくると勘違いしていた――
キリヤはこの先の未来のことを考え、暁を頼らずに生きて行かねばならないことを実感したのだった。
自分で考えて、そして答えに辿り着くこと。いつまでも先生に頼ったままじゃ、僕はこの先、道に迷ってしまうかもしれない――
「……たぶん今のままゆめかさんに会っても、事件の真相は聞けそうにないだろうね。考えよう。そして自分で辿りつかないと!」
それからキリヤは自室に戻ると、シロのことやゆめかのことについて改めて話を整理し、自分なりの答えを探したのだった。
翌日曜日。キリヤは研究所に来ていた。
「まだ少し時間に余裕があるな……」
それからキリヤは、剛のいる部屋に向かった。
キリヤが部屋に入ると、剛は相変わらずたくさんの機械に繋がれたまま、スヤスヤと眠っていた。
「剛、少し痩せたんじゃないか」
キリヤは寝たきりの剛の身体を見て、そう言った。
もしこのタイミングで目を覚ましたら、喧嘩を売られそうだな――
そう思ったキリヤは「ふふっ」と笑う。
それからキリヤはベッドの近くの椅子に座って、眠ったままの剛に話し始める。
「昨日、先生と話した後にまたシロのことやゆめかさんのことを考えたんだ。でも結局、僕は真実にはたどり着けなかったんだよ」
「……」
「シロが今、生きているのなら、たぶん28から30歳ぐらいなんだろうけど……そんな女性、世の中にたくさんいると思わない?」
「……」
キリヤは顎に手を当てながら、少し考えつつ話を続けた。
「先生はその中から、シロをどうやって見つけたんだろうね。そもそも先生の行動範囲なんて、施設と研究所の往復くらいし、か――?」
そしてキリヤははっとした。
そうか。先生はあの日、研究所に行くって言っていたはず。じゃあ、この施設にいる誰かがシロってことだ!! でも、一体誰なんだ――?
「うーん」
それからキリヤは唸りながら、考え続けた。あと少しで真実にたどり着けそうな気がしていたからだった。
――数分後。
「ああ、やっぱりわかんないや!!」
キリヤはそう言いながら顔を上げた時、その部屋の時計が目に入った。
「あ、やばい! 約束の時間が!!」
それからキリヤは、急いでゆめかの元へ向かったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます