第27話ー⑨ 過去からの来訪者
少女がこの施設に来て1か月が経った頃、施設に変化が訪れる――
少女たちを施設に連れてきて以来、顔を出さなかった黒服の男が少女たちの前に現れた。
「君たちの役目を、果たす時が来た」
黒服の男がそう言うと、その後ろから全身黒ずくめの女が顔を出した。
その女は少女たちを見つめて、不気味な笑顔で言う。
「この子たちが、1st?」
そして無言で頷く黒服。
「へえ。とりあえず3人か……残りの2人は、またあとで捕まえればいいわね」
その女はそう言って不敵な笑みを浮かべていた。
「それにしても。こんなに小さな子供には気の毒ねえ。でも私たちの目的達成のためだから、仕方ないわよね」
そう言う表情にぬくもりはなく、少女は直感的にこの人が危ないとわかった。
「まずは誰からにしようかな」
その女はそこにいる子供たちを順に見つめる。そして少女の顔を見て微笑むと、
「ふふふ。あなたにしようかな。一番小さいし、泣きわめかれても面倒だからね♪」
嬉しそうにそう言った。
少女は、恐怖で何も言葉を発することができず、危ないとわかっていつつもその場から動くこともできなかった。
すると、竜也が少女の前に立ち、
「俺からにしてくれない? こいつ、怖がってるし。俺は平気だから」
少し声を震わせてそう言った。
竜也君も本当な怖いのに、私のために――
そう思いながら、その竜也の背中を見つめる少女。
「ふーん。まあ、いいけど。どうせ全員やることだしね」
女は竜也を見ながら、つまらなそうにそう答える。
「じゃあ、こっちへ」
黒服の男は、そう言って竜也を呼び寄せた。
「ここに立ちなさい」
そう言われ、女の前に立つ竜也。
「うふふ。すぐに楽になるから」
女はニコッと微笑み、右手を天に向ける。
少女はこれから何が起こるのかという不安から、ごくりと息を飲んだ。
しばらくすると、女の右手が光り出す。
「あなたのハートからはどんな果実が取れるのでしょうね」
それから女は竜也の胸に、光る右手を突き刺した。
その光景を見た少女は、驚きのあまり目を見開き、声を失っていた。
そして当の本人である竜也も自分の身に何が起きているのか、理解できていないようだった。
それから竜也は恐怖の表情を浮かべ、少女たちの方を見つめる。
「竜也、君……」
紡はそう言いながら目に涙を浮かべて、口元を手で押さえた。
少女はそんな竜也を見て、恐怖の感情が浮かんでしまう。自分も同じようになるのか、と。
そして女は、竜也の胸からゆっくりと手を引き抜いた。それから竜也は、そのままその場に倒れこむ。
流血はしていないものの、全く動く気配がない竜也を見て、少女たちは唖然としていた。
「これよ、これ! やっぱり綺麗ね。純粋な子供から取れる結晶は、質が違うわ!」
女はそう言って、竜也の中から取り出した透明な塊を光に照らしながら見つめていた。
「じゃあ――次はどっちにする?」
見ていた結晶から目を離して、今度は少女と紡に視線を送る女。
私も竜也君みたいになるの――?
そんなことを考えて、足がすくんで動けなくなる少女。すると、
「……今度は私!」
紡がそう言いながら少女の前に立った。
「つ、むぎちゃん……」
「私は、大丈夫。だからあなただけは――必ず、生きて」
そう言って、紡は少女を抱きしめた。
「あら、仲がいいのね! 愛情って感じ? ……そうだ! その小さい子を先に差し出してくれたら、あなただけでも助けてあげましょうか? その愛情には興味があるわあ」
そう言いながら、女は不気味な笑顔を見せる。
私が犠牲になれば、紡ちゃんが助かる――
「紡ちゃん、私――」
「何言っているんですか!! そんなことできるわけないでしょ!」
紡は女の顔をまっすぐに見ながら、そう言った。臆することも躊躇うこともなく。
「たとえ私だけ生き残ったとしても、そんな生き残り方をしたら私は絶対後悔する! そんな人生は絶対に嫌だ! それに、この子は私の大切な仲間で友達なの。だから売ることなんてできるわけない!!」
「紡ちゃん……」
そして女はゆっくりと紡の前に立つと、
「そ。じゃあ、さっさと、消えて」
冷酷な声でそう言って、紡の胸に光り輝く手を突き刺す。
「つ、紡、ちゃん!!」
そして女はその手を抜き、紡はその場に倒れた。
そんな紡を見て、少女は違和感を覚える。
やっぱり、竜也君の時みたいに紡ちゃんにも傷がない……なんで――?
「あらあ。これもなかなか綺麗じゃない?」
満足そうに紡の中にあった結晶を見つめる女。
それから少女は、動かなくなった紡に駆け寄り、
「紡ちゃん? ねえ、起きて! 紡ちゃん!!」
そう何度も声を掛ける。しかし、紡からの返事はなかった。
そんな少女を見た女は、あざ笑いながら言う。
「無理、無理! もう心が死んでいるからね。生きていても、そこに転がっているのはただの抜け殻。心のない人形と一緒なのよ。だからもう2度と自分で起き上がることはないし、話すこともないわ!」
「そん、な……」
「大丈夫、あなたももうすぐ2人と同じようになれる。すぐに終わるから、安心しなさい♪」
そう言って女は少女に近づく。
そして少女は抵抗するかのように、その場から逃げ出した。
「あら、逃げ場なんてないのに」
それから女は、ゆっくりと少女を追う。
逃げなくちゃ、どこかへ。2人は私の代わりに犠牲になった。だったら、私は生きて生きて、生き抜かなくちゃ――
そう思いながら、必死に足を動かす少女。
もう同じことが繰り返されないように、私はここから逃げなくちゃいけない。でもどうやって……? ううん、考えても仕方ないことなんだ。今はただ足を止めちゃダメ――
そして少女はその施設の中を走り回った。
「そろそろ、外でもいいはずなのに……なんで……」
少女は体力の限界を迎えていた。そして、少女はその場に座り込む。
「もう、無理だ……私も、人形になるの? なんで、こんな運命なの……。私、何も悪いことなんてしてないのに。ただ、普通に楽しく生きていたかっただけなのに……。もうお父さんにもお母さんにも会えないのかな。竜也君、紡ちゃん……また2人に、会いたいよ……」
少女の目には涙が溢れていた。
「――泣かなくても、もうすぐ2人と同じようになれるわよ?」
「!?」
少女の目の前に、再びあの女が現れる。狂気に満ちた笑みを浮かべながら。
その表情に、少女は再び固まってしまう。
「さあ。あなたの果実は、どんな色をしているのでしょうね」
そして女は、右手を天に向ける。
私は、生きたい。紡ちゃんや竜也君の分まで生きなくちゃいけないんだ――!
少女は、そう強く願った。すると――少女の身体は、急に光を放ち始める。
「な、何、これ――?」
そこで少女は意識を失ったのだった。
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