第21話ー③ 眠り姫を起こすのは王子様のキス
キリヤが研究所で調査資料を読み漁っている頃の保護施設の出来事。
暁は朝から研究所に行っているキリヤのことをとても心配していた。
もしかしてまた暴走するような兆しがあるだろうか、俺が誘拐されたときに無理をさせてしまったのではないか、と。
「キリヤ、大丈夫なのか……」
暁が深刻な顔をしていると、その目の前に優香がやってきた。
「先生、どうされました? なんだか顔が怖いですよ? もしかして、神宮寺さんと喧嘩でもされました?」
ニコニコと暁に質問攻めをする優香。
「いや、そういうわけじゃ……というか、なんで優香が俺と奏多のことを知っているんだ!?」
「そんなの女の勘です。それに神宮寺さんの話をされているときの先生は幸せそうな顔をしていますし」
俺は無意識でそんな顔をしていたのか――
暁はそう思い、少し恥ずかしい気持ちになっていた。
「まあそれはいいとして。奏多と喧嘩をしたわけじゃないよ。実は、キリヤのことでな」
「へえ、キリヤ君の……」
優香はそう言いながら、頷く。
「検査のために研究所に行くと言っていたのが、気になって仕方がないんだよ。もし何かあったらってさ」
「そうだったんですね」
それから優香は顎に手を添えて、何か考える素振りをしていた。
優香はキリヤと仲が良い。もしかしたら、キリヤから何か相談を受けているのでは? と暁は思った。
「なあ、優香は何か知らないか? いつも一緒にいるだろう?」
暁がそう言うと、頬を赤くして、
「い、いつも一緒なわけじゃないです!!」
そう答えた。そして、
「でも、実は私もキリヤ君のことを聞こうと先生のところに来たわけで……すみません」
俯きながらそう言った。
「そうか」
優香もキリヤのことを知らなかったのか。じゃあマリアなら何かを知っているかもしれない。何かあれば、俺の次にきっとマリアに話すだろうし――
暁がそんなことを思っていると、
「桑島さんは何も知らないとおっしゃっていましたよ。キリヤ君の最近の変化にも気が付いていない様子でした」
優香は暁の顔を見てそう言った。
「そうか……ん?」
心の声を口に出していないはずなのに、なんで優香は俺の思ったことがわかるんだ? まるで優香に心を読まれたような――?
「あ、心を読んでいるつもりはないですよ? 先生はわかりやすいので、表情やしぐさを見ただけで考えていることがバレバレです」
笑顔でそう言う優香。
「な、なるほどな……」
暁はそんな優香に、苦笑いをする。
やはり優香は侮れないな。そんなことで人の心がわかるって、エスパーか何かなのか――?
「様子がおかしいと言えば、狭山君の様子も最近おかしいですね」
「そ、そうかな?」
優香の唐突な問いになぜか暁はそうはぐらかす。
「先生、狭山君のことは何か知っていそうですね? 何を隠しているんですか?」
優香はニコッと笑いながら、暁の顔を覗き込んだ。
「い、いや?」
「さっき言った事、もう忘れてしまったんですか? 先生はわかりやすいんですよ??」
それから暁はそんな優香の気迫に負けて、先日の出来事を優香に話した。
教師としての威厳が――と暁は心の中でそう思ったのだった。
「――なるほど。そんなことがあったのですね。そしてそこにはキリヤ君も……」
優香は目線を上に向けて、一人で考えを巡らせていた。
きっと俺には理解できないほどの速さで脳内処理が行われていることだろう――
そんなことを思いながら優香を見つめる暁。
「そっか……なるほど」
「どうした?」
「いいえ。では、私はこれで」
優香はそう言って暁の前を去ったのだった。
それにしても、優香は一体何に気が付いたんだろうか――
はっとする暁。
「この間のいろはのことと関係が……?」
いくら考えても答えは出なさそうだと思った暁は、キリヤが真実を話してくれることを信じて待つことにした。
「どんなに信頼関係が築けたとしても、秘密があるのはお互い様ってことだよな」
どんなことでもきっとキリヤなら大丈夫だと俺は信じているよ――
* * *
その頃のまゆおは、屋上で素振りをしていた。
もっと早く、正確に技を出せるようにならないと――
そう思いながら、まゆおは竹刀を振り続ける。
僕の刃ならきっと『ポイズン・アップル』のチップを破壊できるはず。そのために僕はもっともっとがんばらないと――!
そしてそんなまゆおの姿をいろはは心配そうに隠れて見守っていた。
「まゆお、どうしたの。そんなに無理したら、まゆおも剛君みたいに……」
いろはがそう呟いたとき、まゆおは疲労からその場に尻もちをついてしまう。
息は切れ切れで、大量の汗が流れていた。
いろはは隠れていることに耐えきれなくなり、まゆおの前に姿を現す。
「まゆお! 大丈夫!?」
「い、いろは、ちゃん? いつからそこに!?」
「いつだっていいじゃん! まゆお、大丈夫なの!?」
「はあはあ、僕は、大丈夫、だよ」
そう言ってまゆおはいろはに微笑む。
「無理してんじゃん! なんで! なんでそんなに無理するの!? アタシ、心配になるじゃん! 剛君みたいにまゆおが起きなくなったら嫌だよ!!」
いろはは目に涙を溜めながらそう言った。
「今、無理をしなくていつするのさ。僕は……」
まゆおは本当のことをいろはに告げそうになる。
でもこのことを知ったいろはちゃんはきっと悲しい顔をする。そんな顔は見たくない――
まゆおはそう思いながら、黙り込む。
「まゆお?」
いろはは心配そうにまゆおの顔を覗き込む。
「……ごめん。ありがとう、いろはちゃん。でも、僕は本当に大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
まゆおは優しくいろはにそう告げた。
僕はいろはちゃんを救いたい。だから多少の無理は承知の上だ。そうじゃないと、きっと君を救えない。
僕は僕を救ってくれた君を失いたくはない……。君のそばにずっといたいんだ――
そしてまゆおはいろはをそっと抱きしめる。
「え!? ど、どうしたの、まゆお!!」
「ご、ごめん。つい……」
そしていろはから離れるまゆお。
「ははは。まゆお、顔が真っ赤だよ!!」
まゆおの顔を見た、いろはは大笑いをする。
「そ、そんなに笑わなくても!! 傷つくじゃないか……」
そう言って肩を落とすまゆお。
「あはは。ごめん、ごめん。でも、嬉しかった。ありがとう! なんでそんなに無理をするのかはわからないけど、なんか意味があるんでしょ? じゃあアタシは親友として黙って見守るしかないね。もし辛くなったら、すぐに相談してよ?」
そう言っていろはは微笑んだ。
「し、親友……か」
「うん!」
満面の笑みを向けるいろは。
「あはは。わかった。ありがとう、いろはちゃん!」
まゆおはそう言いながら笑った。
それからいろはは屋上を出て行った。
「君は必ず僕が救って見せるから」
そしてまゆおは立ち上がり、再び素振りを始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます