第20話ー⑥ 動き出す物語

 所長と電話をした翌日。キリヤは研究所に向かった。


 それからキリヤが研究所に到着すると、研究所の入り口で待つ所長とゆめかの姿が目に入る。


「やあ、キリヤ君。待っていたよ」


 そう言って微笑む所長。


「お2人でお出迎えなんて、珍しいですね」


 所長とゆめかを交互に見ながらキリヤはそう言った。


「ふふふ。そうだね。今回は特別なんだ」


 そう言いながらゆめかは後ろで手を組み、綺麗な銀髪をなびかせて微笑んだ。


 今回は、特別? それってどういうことなんだろう。僕がインターンシップに参加するからなのかな――


 そんなことを思いながら、キリヤはゆめかの顔を見つめた。


「じゃあ、私たちについてきてくれ」


 所長にそう言われたキリヤは、所長たちと共に研究所を右手に見ながら進み、いつも検査をする建物とは違う建物に案内された。


「ここだ」

「ここ、ですか?」


 キリヤは所長に言われた先を見つめると、そこには昔ながらの蔵――瓦屋根のある木造建築物――が建っていることを確認した。



 研究所の横にこんな古い建物なんてあったんだ――


 そう思いながら、感心してその建物をまじまじと見つめるキリヤ。


 それから所長たちの後に続き、キリヤはその建物の中に入った。


 そしてその建物に入ったキリヤは呆然とする。


 外見通りの見たではあるものの、なんでこの建物の中には何も置いていないんだ――?


 そう思いながら、何もない部屋の中を見渡すキリヤ。


「所長、ここは――?」

「こっちだ」


 所長はキリヤの問いに答えることなく、部屋の奥に向かった。そしてキリヤはその後を黙って追いかける。それから部屋の隅にある壁の前で立ち止まる所長。


 行き止まり、みたいだけど――?


 壁を見つめ、キリヤはそんなことを思っていた。


 それから所長は、その壁にそっと触れる。すると、壁の一か所がへこみ、そこからカードリーダーが出現した。


「現代的なのか古典的なのか……そんなよくわからない造りになっているんですね」


 そんなことを呟きながら、キリヤは感心して頷く。


「ははは。この方が、いろいろと都合がいいからね」


 そして所長は胸ポケットから何かのカードを取り出し、出現したカードリーダーに通した。すると、先ほどまで行き止まりだったその場所に道ができたのだった。


「もしかして隠し部屋、ですか……?」

「ああ。そうだよ。さあ行こうか」


 そしてキリヤたちは、出現した道を通り、部屋のさらに奥へと向かう。


 キリヤは部屋の奥に進みながら、所長に目的である暁のことを尋ねた。


「あの、所長。先生の悩みの真相を教えてくれるっていうのは――?」

「ああ、そうだったね。まあ、それはこの先に行けばわかるさ」


 この先に行けばわかるって……。所長はそう言うけれど、一体この先には何があるっていうんだ――


 キリヤがそんなことを思っていると、道の終わりに重々しい扉が見える。


「あの扉は……」


 そして所長はその扉を開ける。


「さあ、ようこそ。君を歓迎するよ、桑島キリヤ君」


 そう言われたキリヤは、その扉の先にある部屋を見つめる。すると、そこは何かの書類が山積みに置かれている机があった。


 何かの書類庫か資料室なのかな。でも、歓迎するっているのは、どういう意味なんだろう――?


「あの、所長。ここは……?」


 キリヤがそう問うと、所長は仁王立ちをしながら、


「ここは特別機動隊『グリム』の本拠地さ。そして君のインターンシップ先でもある!」


 自信たっぷりにそう答えた。


「特別機動隊……?」


 キリヤがそう言って首をかしげると、ゆめかは「やれやれ」と言ってから、説明を始めた。



「政府でも研究所でもない第三の組織さ。ここでは、政府が世間に口外していない事件を秘密裏に捜査し、解決する。もちろん政府の人間にはばれないようにね」


「政府が世間に口外していない事件?」


「そうさ。政府が一般市民へ口外せずに隠している事件。白雪姫症候群スノーホワイト・シンドロームの子供たちの事件は、特に隠されていることが多い。今回の例でいくと、『ポイズン・アップル』のことかな」


「『ポイズン・アップル』?」



 キリヤがぽかんとしたままそう言うと、


「君が聞きたがっていた、暁君が悩んでいる事件のことだよ」


 所長はキリヤの顔をまっすぐに見てそう言った。


「え、先生が!?」


 でも、なんで先生が政府の秘密裏にしている事件のことを知っているんだろう――


 キリヤは腕を組み、そんなことを考える。それからはっとすると、


 そうか……そもそも先生はここで暮らしていたわけだし、先生もこの組織との関りがあってもおかしくはない、か――


 そう思い、「うんうん」と頷くキリヤ。そして、


「えっと、キリヤ君? 話を続けても大丈夫かい??」


 ゆめかはキリヤの顔を覗き込みながらそう言った。


「あ、はい! すみません!!」


 ゆめかの言葉で我に返ったキリヤはそう言って頭を下げた。それからゆめかは話を続けた。


「『ポイズン・アップル』は白雪姫症候群スノーホワイト・シンドロームの子供たちを利用して行われている実験なのさ。能力を無理やり暴走させて、実験材料にしているんだ」

「そんな! 無理やり暴走なんて……」


 そう言って俯くキリヤ。


 能力の暴走なんて、本来あってはならないことのはずなのに。なんで、そんなことを意図的にやろうって人間がいるんだ――?


「うん。それで見過ごせないと思った我々はその事件を秘密裏に追い、解決を目指しているってわけさ」


 ゆめかや所長が自分も含めた能力者を大切に思っていることは理解していたキリヤ。


 まさかこんな危険なことを自分たちの知らないところでやっていたなんて、とキリヤは驚いていたのだった。


 それだけゆめかさんも所長も本気ってことなんだよね、きっと――


「理由はわかりました。でもなんでこのタイミングで僕をインターンに誘ったんですか? これって結構危ない案件なんじゃ……」


 キリヤがそう問うと、所長はいつもより真剣な表情して、


「そうだね。君の言う通り。この案件は非常に危険だ。下手をすれば、この世から消される可能性だってある」


 冷静な口調でそう告げた。


 キリヤは所長のその言葉に驚愕して、


「消される!?」


 そう言って目を見開く。


「でも、このタイミングだからこそ、なんだよね。所長?」


 そう言って笑うゆめかを見たキリヤは、ゆめかには所長の思惑がわかっているんだろうなとそう思ったのだった。


 そして、まだ理解しきれていないキリヤは、


「え、それはどういう……?」


 そう言って困惑の表情を浮かべる――。

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