第15話ー① 大事件発生
――暁の自室にて。
キリヤはいつものように暁の自室に入り浸り、嬉しそうに植物の手入れをしていた。
そして暁はベッドに座ったままそんなキリヤを見て、やれやれと思いながらもキリヤのやりたいようにさせていた。
「――そういえばキリヤ。最近、優香と一緒にいることが増えたな」
暁がそう尋ねると、キリヤは手を止めずに、
「うん! 優香と話すと面白いから」
嬉しそうにそう言った。
「そうか。それはよかった」
それを聞いた暁は、最近の優香の様子を思い出していた。
来たときと比べて、笑顔を見せることが増えたり、キリヤと一緒に居るときは楽しそうにしている優香。
キリヤがきっと俺の知らないところで何かをしてくれたのかもしれない――
そう思いながら、暁は楽しそうに観葉植物を触るキリヤを見つめた。
生徒たちがいい方向に変わってくれることは俺にとってとても喜ばしいことだ。それに、生徒同士が関わって成長していけるのなら、なおさらな――
そんなことを考え、暁は微笑む。
するとキリヤはそんな暁から何かを察したのか、暁の方を向いた。そして、
「どうしたの先生? なんだか感慨深い顔をしているみたいだけど。もしかして……先生は嫉妬しているとか!? 僕が優香に取られちゃうかもって?」
困った顔をしてそう言った。
「は、はあ!? なんでそうなるんだよっ!! それと、これは感慨深い顔じゃなくて、喜びの表情だ!」
そんなにわかりにくい顔をしたつもりはないんだが――?
「先生は奏多のいない悲しみを僕で埋めていたんだよね……。ごめんね、先生! 僕は先生だけを見てるから!」
キリヤは暁の反論が聞こえなかったのか、暁に同情の目を向けてそう言った。
「いや、だから男同士でそういうのはないだろ!!」
「照れなくてもいいんだよ~」
そう言いながら、キリヤは楽しそうに笑っていた。
そんなキリヤを見て、自分がからかわれたことに気が付く暁。
「まったく、キリヤは――!」
「あははは!」
暁の自室からは楽し気な笑い声が漏れていたのだった。
そう。今日もいつも通りの平凡な一日になるはずだった――
同日の晩。暁はいつものように職員室で報告書をまとめていた。
報告書を半分くらい書き終えた頃、入り口の方でそっと扉が開く音を聞いた暁はその音の方に目をやる。
すると、そこにはニコッと微笑む狂司の姿があった。
狂司が職員室に来るなんて、珍しいな――
「どうした? こんな時間に」
暁がそう尋ねると、
「先生。僕がここに来た理由ってわかりますか?」
狂司は表情を変えずにそう告げる。
「ここへ来た理由――相談事、とか?」
そう言って首を傾げる暁。
「違う。僕は、先生を奪いに来た」
狂司はにやりと笑い、静かな声でそう暁に告げた。
「それは、どういうことだ?」
今、俺を奪いに来たって……狂司は何を考えている――?
「今この施設全体は、僕の能力下にあります。先生が黙ってついてきてくれたら、ここの生徒には何もしないし、奪いに来た目的も教えてあげますよ」
狂司は淡々とそう告げた。
能力下にある? でも狂司の能力って、広域系統ではなかったはずじゃ――
「狂司の能力って、
暁が真剣な顔でそう問うと、
「実はそっちは複合能力なんです。本当の能力は『集団催眠』。対象の範囲にいる人を眠らせることができます。そして人を操ることも」
含みのある口調でそう言う狂司。
「複合能力者だったのか……」
暁はそう呟きながら、目を見張る。
書類に目を通しておくべきだったか――暁は眉間に皺を寄せながら、そう思っていた。
でも、初めからこの作戦に移すつもりだったならば、きっと書類には『集団催眠』のことは記されていない可能性が高いな――
「それで、どうしますか? 暁先生??」
狂司は冷たい笑みでそう言った。
それを見た暁は、あまり考えている時間がないことを察する。
狂司の顔は本気だ。俺がもしついていかなければ、生徒たちに何かをするのは間違いない。人を操れる能力だとしたら、なおさら放ってはおけない――
暁はまっすぐに狂司の顔を見ると、
「わかった。ついていく。でも約束してくれ。生徒たちには絶対危害を加えないって」
落ち着いた声でそう言った。
それから狂司は静かに首肯すると、職員室に来た時と同様にニコッと微笑み、
「じゃあ、さっさと行きましょうか」
そう言って踵を返す。
「ああ」
そして暁は狂司に連れられ、施設を出たのだった。
* * *
――翌朝。キリヤの自室にて。
「んん、あれ――」
キリヤはゆっくりと顔を上げる。
「僕って、いつの間に眠って……?」
寝落ち? しかも机で……昨日って寝落ちするほど、眠たかったかな――
机で目を覚ました自分に違和感を抱くキリヤ。それからキリヤは自分の身体に異常がないかを確認した。
「頭部が痛むこともない。身体のどこかに傷は、ないか……うーん、誰かに気絶させられたってわけじゃなさそうだ」
でも、いつもなら机で眠っちゃうなんてことはないはずなんだけどね――
「この違和感は、僕の気のせい――なのかな?」
あとで先生に相談してみよう――
それからキリヤはいつものように朝の支度を済ませると、そのまま食堂に向かった。
キリヤが食堂に着くと、クラスメイト達が各々で朝食を摂っていた。
あれ、先生がいない――?
「おはよう、まゆお。ねえ、先生は?」
キリヤは近くで座っていたまゆおにそう尋ねた。
「キリヤ君、おはよう。先生なら、僕が来た時からいなかったよ。もしかしたら、まだ寝ているのかもしれない」
「そっか……」
珍しいこともあるんだな、とキリヤはそう思う。
普段の暁は誰よりも早くに食堂を訪れ、一番端の席に座り、先に朝食を摂っていた。
その行動には、生徒たちの朝一の表情を見て、その日の様子を確認しているという理由があることをキリヤは知っていた。
まあ、そんな先生でもたまには寝坊する日もあるよね――
そんなことを思いつつ、キリヤは朝食を摂り始める。
それから数分後。キリヤが朝食を食べ終えても、暁が食堂に姿を現すことはなかった。
「さすがに遅くない? 授業始まっちゃうよね……」
そんな心配をしつつ、キリヤは授業の用意を自室にまで取りに戻り、そのまま教室に向かった。
もしかしたら、朝食を抜いてそのまま教室に来ているかもしれないよね――
そう思いながらキリヤが教室に入ると、そこに暁の姿は――なかった。
キリヤは怪訝に思いながらも机につく。
まだ始業ベルまであと10分くらいあるし、時間までは待とうかな――
それから授業の開始を告げるベルが鳴っても、暁が教室に現れることはなかった。
「寝坊……? それと、他に何か忘れているような――」
そう思いながら教室を見渡すキリヤ。
はっとしたキリヤは、暁の他に狂司の姿がないことにも気が付く。
「やっぱり先生が時間になっても来ないのはおかしい。そして、狂司がいないことも……」
キリヤはそんなことを呟きながら、顎に手を当てて考えた。そしてキリヤの頭に、最悪な結果がよぎる。
もしかしたら昨晩に狂司の能力が暴走して、先生と一緒に研究所に行っているのでは、と。
「真実を確かめないと!」
キリヤはそう言って勢いよく立ち上がり、そのまま教室を出た。
「キリヤ君、どこいくの!!」
背後から聞こえるいろはの声に振り向くこともなく、キリヤは急ぎ足で狂司の部屋に向かった。
そこに何か手掛かりがあるかもしれない――キリヤはそう思ったからだった。
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