第1話ー⑧ 出会い

「何でもか。そうだな――よしっ! じゃあ、これから何か悩みや相談事があれば、俺に相談すること。以上だっ!!」


 右手の拳を肩の高さでぐっと握って、暁はそう言った。


「……え?」


 生徒たちは目を丸くし、声を揃えてそう呟いた。


「それ、だけ?」


 いろははぽかんとしたまま、そう言った。


「ああ!」

「何でも言うこと聞かせられる権利なのに?」


 そう言って暁に詰め寄るいろは。


「そうだ」

「もっと行動範囲を狭めるとか、規則を厳しくするとかじゃないの?」


 いろははそう言って暁の顔をじっと見つめた。


「ああ、そうじゃないよ。だからいいか? 相談事があるときは俺に必ずしろよ! 俺はこのクラスの担任教師なんだからな!!」


 暁は腰に手を当て、満面の笑みでそう言った。


 目を見開きながら、暁を見つめる生徒たち。


 それからいろはが急に笑い出し、それにつられて、他の生徒たちもクスクスと笑い始める。


「センセー、やっぱり最高だよ!! チョー面白いじゃん!!」


 いろはは、腹を抱えて笑いながらそう言った。


「そ、そんなに笑うことじゃないだろう? 可笑しかったか?」

「あはは! いや最高だぜ、暁先生!!」


 剛は笑いながら親指をぐっと立ててそう言った。


「あはは、ありがとう」


 それから暁は他の生徒たちの方に目を遣った。


 全員とまではいかなかったが、レクリエーションを始める前よりは生徒との心の距離が縮まったように感じる暁だった。


 今回は概ね成功だったってことだな。この調子でこれからも生徒たちとたくさんの思い出を作っていくぞ――


 そう思いながら、暁は小さくガッツポーズをした。


「先生。いきなりだけど、相談いい?」


 暁が満足げにしていると、真一はそう言って手を挙げた。


「ああ。構わないぞ。何でも言ってくれ」


 そう言って真一の方に視線を向ける暁。


 すると真一は真剣な表情をして、


「先生って『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』なの?」


 淡々とそう尋ねた。


 その問いから、一気にその場の空気が張り詰める。


 そして生徒たちは、暁からの答えを真剣な表情で待っていた。


 レクリエーション開始時のあの光景とそれぞれのバトル内で見た暁の行動に、少なからず生徒たちは疑問を抱いていたのだった。


「――そうだ。俺はお前たちと同様に『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』の能力者だよ」


 暁はそう言って困った顔で笑った。


 その答えに生徒たちははっとした表情をして、お互いの顔を見合わせていた。


 しかし真一だけは表情を変えず、


「やっぱりね。――じゃあその能力は『無効化』って感じかな」


 淡々と暁へそう尋ねた。


 その言葉に暁は感心した表情をして、


「おお、正解だよ! すごいな!! 真一の言う通り、俺の能力は『無効化』だ」


 そう言って頷いた。


 暁のその言葉に真一は無関心な表情で、淡々と言葉を続ける。


「それでもう一つ大きな疑問があるんだけど。先生って、成人しているよね? なんで、能力が消失していないの?」


 真一のその問いに、他の生徒たちは関心を持って暁を見つめた。


「あ、ははは……」

 

 いくらまだ成人していない生徒たちでも、思春期の少年少女にしか能力が出現しないことくらいを知っているか――


 いつか知られることなら早いうちに話そう、そう思った暁は小さく頷いた。


「この話は教室に戻ってからにしよう。ちょっと長くなるからな」


 暁が申し訳なさそうにそう言って笑うと、真一は黙ったまま立ち上がり、建物へと向かって歩いて行った。


 納得してくれたってことかな――?


「それじゃあ、みんなも教室に戻ろうか」


 それから暁と残った生徒たちも教室へと向かって行ったのだった。



 * * *



 ――グラウンドにて。


 キリヤは他の生徒たちとは少し遅れて、教室へ向かって歩きだしていた。


 あいつは二十歳を過ぎた今でも能力が消失せず、そのうえ外の世界でのうのうと生きてきたっていうのか――?


 教室に戻る途中、キリヤはそんなことを考えながら歩いていた。


 もしかして僕たちの中の誰かもそういう可能性があるのか? それがもし、僕やマリアだったら――


 そう思いながら、眉間に皺を寄せるキリヤ。


「キリヤ?」


 そう言って不安げな表情でキリヤの顔を覗き込むマリア。


「どうしたの、マリア?」

「ん。なんだか怖い顔をしていたから」


 マリアは、僕のことを心配してくれているんだな――


 キリヤはそう思い、ニコッと笑うと、


「大丈夫。僕はいつも通りだよ」


 明るい声でそう答えた。


「それなら、いいけど」

「うん」


 こうしていつも心配してくれるマリアに、キリヤは嬉しさを感じていた。


 これが家族の絆で、絶対に切れない縁なんだと信じていたからだった。


 唯一の家族で、信じられるたった一人の存在――キリヤは自分とマリアとの間には、何人たりとも踏み込ませないつもりでいた。


 特に政府の犬である、あの教師は絶対に――そう思いながら、顔をしかめるキリヤ。


 あいつと慣れ合うつもりはないけれど、成人しているのに『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』の能力が消失していないってことは少し気になる――


「とりあえず今は、あいつの話を聞いてみるか」


 キリヤはぽつりとそう呟いた。


 悩んでいても、答えなんて出ないからね――


 そしてキリヤたちは教室へと向かっていったのだった。

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