白雪姫症候群 -スノーホワイト・シンドロームー
しらす丼
第1部
プロローグ
約二十年前、この世界では不思議な現象が観測された。
その身一つで空を飛んだり、水を自由自在に操ったり――それらは普通の人間には到底できない驚異的な現象であった。
『これは、世紀の大発見かもしれないぞ』
とある議員の言ったその発言から、政府はその原因不明な現象の可能性を認識し始め、その現象を有効活用するために研究を始めることとなった。
しかし期待されていたその研究は、政府の人間たちの思うようには進まず、難航を極めた。そしてこのままこの研究は打ち切りになるかと思われていた時――
『街の小さな研究所に、この研究を独自に進めている研究者がいるらしい』
そんな噂を聞きつけた政府の人間は、噂の研究者を探し出し、その研究者に研究を委託したのだった。
初めは苦戦したその研究者だったが、その現象の力を宿した子供からの協力を得ることで、研究の成果を徐々に上げていった。
そしてその現象は、当時協力していた子供の名前から、『
――それから数年。研究を進めるうちに、その力はすべての人間に宿るわけではないという事実が判明する。
『この力を宿すことができるのは、思春期の少年少女だけです』
政府がその発表を大々的にすると、日本全土が震撼したのだった。
思春期は自身の環境の変化やホルモンバランスの乱れから、感情が大きく変動する時期でもあり、自分の感情をうまく制御できない少年少女たちもいた。
『昨日も『
いつしかメディアでは、連日に渡り、能力者の事件について報道されるようになっていた。
自身の感情の制御ができない少年少女たちは能力のコントロールが利かず、無意識に周囲にあるものを破壊し、家族や関係のない人たちに危害を加えるといった事件を引き起こしていたのだった。
『能力者の破壊行動は、わが国においての最重要課題である』
そう宣言した政府は、これ以上の事態悪化を防ぐため、能力に目覚めた少年少女たちをそれぞれの能力値によりA~Cまでのクラス分けをして、まとめて管理することにした。
より危険な力を持つ子供たちを管理、観察することにより、『
そして世間では、最も危険視されているクラスの名を危険度S級クラスと呼んでいた。
S級クラスの少年少女たちは能力が発覚した時点で、政府が運営する保護施設へ送られ、能力の消失が確認されるまでの間はその施設から出ることは許されなかった。
『そんなのは差別だ。家の子を返せ!』『その子たちの人権はどうなるんだ!』
S級クラスになってしまった子供を持つ親たちからは、そんな言葉もあったが、研究関係者たちは苦渋の思いでそんな親たちから子供たちを引き剥がしていた。
『嫌だよ! 僕、お父さんとお母さんのところに帰りたいっ!』
そう言って泣きじゃくる子供の肩を抱え、白衣の男性は眉間に皺を寄せる。
『ごめんな。でも、これはこの国の平和のためなんだよ……』
親が子供を大切に思う気持ちを理解していないわけではなかったが、その時はただそうすることしかできなかった研究関係者たち。
S級クラスの子供たちは、他のクラスとは違い、一人でも殺人級の力を有していたため、仕方のないことだった。
能力の抑制は心の安定が鍵――
それは研究結果でわかっている事実だったが、S級クラスの少年少女たちはそれぞれの境遇や生い立ちをきっかけに覚醒をしていたこともあり、心の安定が難しかった。
そんな少年少女たちの心の安定と育成のため、政府は何度か施設へ教師を派遣したが、生徒たちとの折り合いが悪く、派遣した教師はすぐに逃げ出してしまっていた。
『もう後がないぞ。次に派遣する教師は慎重に選ばなければ』
『ああ、そういえば。最近、面白い話を耳にしたんだが――』
そして次の人選に悩んでいた政府は、ある男に白羽の矢を立てた。
それは『
これは、その一人の男性教師がS級クラスの少年少女たちと出会い、心を通わせ、未来を創っていくまでの物語である。
* * *
――研究所にて。
「やあ、準備はできたかい?」
白衣を着た男が笑顔でそう尋ねた。
「――はい。いよいよ、ですね」
緊張した顔で答えるスーツの青年。
「ああ。そうだ! 事前に渡してあった資料は――」
「必要なところだけ、読んであります」
青年の言葉に、白衣の男は首を傾げた。
「? すべてに目は通さなかったんだね」
「ええ。自分の目で見て、確かめたいですから」
そう言って青年はニッと笑う。
「そうか。それは実に君らしいね」
「あはは、ありがとうございます」
「ああ。それじゃあ、そろそろ時間だ。頑張ってくれよ、三谷暁先生?」
白衣の男が暁の目をまっすぐに見てそう言うと、
「はいっ!」
満面の笑みでそう答える暁。
そして暁は研究所の前に止まっている車に乗り込み、目的地である『
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