第265話 意外な結婚
マチュアには、男の影など全くない雰囲気だったので、祝福の気持ちより驚きの方が勝り、やや上ずった声で聞いてしまう。
「お、お前、結婚したのか? いったいいつ?」
「ええっと、ちょうど二週間前ですね」
「へえ、相手はどこの誰だよ?」
「ふふ、ナナリーさんも知ってる人ですよ」
「マジか。なんにしても、水くさいぜ。結婚式にくらい、呼んでくれてもいいのによ」
「呼ぼうとしましたよ。でも、この一ヶ月間、どこかに行ってたじゃないですか」
「そうでした」
こちとら、レグラックで地獄の猛特訓をしていたんだった。
カランカラン。
ギルドの入り口につけられているベルが鳴り、ドアが開くと、巨体がぬうっと室内に入ってくる。冒険者になってから、俺もレニエルも、何度も世話になったタルカスだ。
別れの挨拶をしようと近寄り、なんと、彼の左手の薬指にも、マチュアと同じ意匠の指輪がはまっているのを、俺は目ざとく発見する。
「まさかとは思うが、マチュアの旦那さんって、タルカスなの?」
俺の問いに、マチュアははにかみながら答えた。
「そのまさかですよ」
「マジか。超奥手男だと思っていたが、裏ではやることやってたんだな!」
「もう、変な言い方しないでくださいよ」
よく考えてみれば、女が苦手のタルカスだが、初めて会ったときから、このマチュアに対してだけは、接近して耳打ちしてたりしていたし、思えば、あの頃からいい関係だったのかもしれない。
そう、一人で納得する俺に対し、ごついが、優しい笑顔を浮かべて、タルカスが言う。
「実は、マチュアさんとは、以前から交際関係にあったのだが、女性とまともに触れ合うこともできない私では、彼女を幸せにできるかどうか不安で、結婚という段階に進むべきかどうか、迷いがあった。しかし、きみのおかげで、こうして彼女と添い遂げることができた。本当に感謝している」
「俺のおかげ? なんで?」
その疑問に答えたのは、マチュアである。
「ナナリーさんと一緒に依頼をこなすことで、女の子といる時間が増えたから、タルカスさん、随分と女性慣れしたみたいなんです。今では、私が触れても、拒否反応を起こさなくなったくらいなんですよ」
「へえ、そりゃ大変けっこうなことだ。やったじゃん」
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