第251話 割に合わない
そうだ。
俺は、ジガルガを助けたいのと同じくらい、このアーニャに勝ちたかったのだ。
一度目の戦いでは、ほとんど手も足も出ずに敗れ、二度目も、引き分けという体裁だが、実質は負けたようなものだ。
そんな彼女に、三度目の今回は、勝ちたかった。
それが、アーニャの言う通り、ハンデをいっぱいもらった、ただのゲームだとしても。
自分でも驚くが、俺は思ったより、負けず嫌いらしい。
アーニャは、まるで理解できないと言うように、首を左右に振る。
「まったく、人間の考えっていうのは、理解しがたいなぁ。何回も言ってるけど、これ、ただのゲームだよ? こんなにボロボロになって、僕に勝ったから、いったいなんだっていうのさ? そりゃ、友達のジガルガちゃんが戻ってくるのは嬉しいだろうけど、お金がもらえるわけでも、名誉が手に入るわけでもない。とても、割に合わないと思うけどな」
そこに、虚空から言葉が響いてくる。
「いや、アーニャ、これこそ人間の素晴らしさだ。非合理的なことに、
どこぞの総理大臣のようなことを言いながら、拍手をする店主。
リングを囲んでいた観客人造魔獣たちも、口々に「感動した!」と叫びながら、おんおんと号泣している。
はいはい……
そりゃよかった……
皆様に感動してもらえて、俺も嬉しいですよ……
しばらくして、やっとこさ、足に力が入る程度には回復したので、俺は立ち上がり、店主に向かって言う。
「さあ、約束だぞ。ジガルガを返してくれ」
「わかっているよ」
「あと、
「ん? そんな約束はしいていないと思うよ?」
ちっ。
勢いで押し切ろうと思ったが、やっぱり駄目か。
おっと……まだ少し、足がふらつく。
バランスを崩し、転びそうになった俺を支えてくれたのは、アーニャではなく、いつの間にかリングに現れていたジガルガだった。
小学生程度の体格なのに、がっしりと力強く俺を受け止めるその腕力は、さすが人造魔獣である。
俺は、なんとか自立すると、ジガルガの頭を撫で、笑う。
「どうだ、ジガルガ。勝ったぞ。山ほどハンデを貰った上の、辛勝だけどな」
そして、ピースサインだ。
ふふふ、決まった。
さすがのジガルガも、ここは感涙にむせび、俺に感謝の言葉を述べるだろう。
そう思っていると、ジガルガは小さな体で、俺を目いっぱい抱きしめてきた。
ふふふ、いいだろう。
そのまま、俺の胸の中で泣くがよい。
んっ……
んぐぐ……
ちょっ……
力、強……
苦しっ……
ちょっ、おい、いくら何でも、抱きしめすぎだ。
なんなんだいったい?
そう思ってジガルガを見ると、泣いてこそいないものの、その表情からは、深い心労が見て取れた。
「お、おい、どうしたんだよ……? あのクソ店主に、何か変なイタズラでもされたのか?」
虚空から、店主の声が響いてくる。
「私を変質者のように言うのはやめてくれたまえ。ジガルガは喜んでいるのだよ。自分が助かったことより、無理な身体強化をおこなった割に、案外きみの体が無事であることをね。不思議なものだ。人類抹殺のために作られた戦闘マシーンであるジガルガに、このような感情があるとはな。うーん、実に興味深い」
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