第202話 フルアーマーナナリー
アーニャが、俺の顔を見て、ニコニコしながら提案する。
「ご主人様、僕、いいゲームを思いつきました」
「何かな? 言ってごらん」
「はい。大怪我しないように、ナナリーちゃんにいっぱい防具を着せて、僕と戦うんです」
「それはダメだ。たとえ最高の防具を着せても、力に差がありすぎる」
「わかってます。だから、ハンデもつけるんです。僕は、ナナリーちゃんの頭を攻撃しません。叩くのは、最高の防具で固めた体だけ。これなら、深刻な怪我は負わないはずです」
「ふむ……だが、彼女の攻撃でお前を倒せるとは思えない。どちらも攻め手を欠いた、つまらないゲームになるのではないか?」
「えへへ、だから、勝敗条件も別々にするんですよ。試合時間は五分間で、五分のうちに、僕の顔面を一発でも殴り飛ばすことができたら、ナナリーちゃんの勝ち。反対に五分間、一発のパンチも顔面にかすらなければ、僕の勝ち。もちろん、僕は逃げ回ったりしません。ちゃんと、正面から戦います」
「ふむ……ふーむ……うむ、それなら、案外良い勝負になるかもしれないね。さすがアーニャだ」
「えへへー」
店主とアーニャが相談している最中、俺は異論を挟まなかった。
このゲームが、俺にとって思った以上に有利だと思ったからだ。
確かに、このアーニャは化け物だ。
俺とは力の差がありすぎる。
だが一発。
顔面にたった一発なら、当てられる。
10日前ならともかく、今の俺には、ジガルガに教わった達人の技があるのだ。
ジガルガも、このルールなら、俺が大怪我することはないと思ったのか、特に何も言わなかった。
アーニャが俺に向き直り、相変わらずの朗らかスマイルで問うてくる。
「今の、聞いてたよね? ルールに異論はない?」
「ああ」
「それじゃ、今から防具を貸してあげるね。どんなやつがいい?」
「この店で一番すごいやつをくれ」
「わあ、図々しい~」
「やかましい。ジガルガのために、万が一にも負けられないんだ。つべこべ言わずに最高のやつをくれ」
「はいはい。とびっきりのをあげるよ。よいしょっと」
重たい荷物を持ち上げるようなアーニャの掛け声とともに、俺の体が光に包まれる。
眩しさに目を閉じ、再びまぶたを開いた時、全身が仰々しいまでの武装に覆われていた。
「おおぉ……すげー……なんか異様にキラキラしてる……」
「ふふふー、古代世界で最高の防御力を誇った、金剛堅竜の鱗から作った鎧だよ。本当なら、人間が着用して歩くことなんか不可能な重量なんだけど、ご主人様の魔法で重さを極限まで軽くしてあるから、まるで羽毛で作った服みたいな着心地でしょ」
本当に軽い。それに、関節の部位が、ゴムみたいに柔軟に伸びる。
装飾がいっぱいの豪奢な鎧だが、これなら自在に動き回れそうだ。
「足回りも、がっちり固められてるな。鎧とは少し色が違うけど……」
「素材が違うからね。それは、古代世界最速のドラゴン、飛天翼竜の皮膚を使って作ったレガースだよ。防御力は金剛堅竜の鱗よりは落ちるけど、着用者の素早さを上げる効果があるんだ」
ふうん。
言われてみれば、いつもより体が軽い。
小さくステップを踏むと、まるで飛んでいるような感覚である。
「そして、腕にはあの、水晶輝竜のガントレットか。こりゃ凄い。まさに最強の装備だな」
「まったくだよ。伝説級の武具を三つも身に着けられた上に、頭は攻撃しちゃ駄目なんだから、このゲーム、さすがの僕でもちょっとキツイかもね」
「今更装備を返せって言われても返さないからな」
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