第193話 単純で当たり前のこと
そして、ジガルガと半分意識を同化させ、技の習得を始めてから、瞬く間に10日間が過ぎた。
その間、ジガルガは一度も長期休眠することがなく、みっちりと俺の修行に付き合ってくれた。
どうやら、半分意識を同化させていると、ベースとなる俺の意識にジガルガの意識がくっつくような形になるらしく、普通に一晩ぐっすりと寝るだけで、翌日も元気に行動できるようだ(なぜそうなるかという理屈を、ジガルガが丁寧に解説してくれたが、もちろん俺の知能では理解できなかった)。
「すぅー……はぁー……よし、とりあえず、昼飯前の練習は、ここまでにしておくか」
その日も例の広場にて、午前中の練習を終え、俺は気持ちを整えるように、深呼吸をしていた。
ちなみに、ジムでやらないのは、あまり目立ちたくないからだ。
まだまだ未熟者の俺が、突然達人のような動きをしていたら、色々と注目を集めてしまうだろう。
まあ、別に目立って困ることもないのだが、できれば静かに集中して練習したいので、すっかり馴染みとなったこの広場が、俺のお気に入りということである(なんたって、ジムと違って利用料はタダだし)。
『うむ。これで、達人級の基本的な身のこなしと、達人級の基本技の習得は完了した。よく頑張ったな』
「うす。これもすべて、ジガルガさんのおかげっす。ただ、達人級の基本って、なんか矛盾してる気がするけど……」
『別に矛盾していない。未熟者のおこなう基本と、達人のおこなう基本は、まったく違うからな』
「はあ、そういうもんかね。あの、それで、できれば基本以上の技も教えてほしいんだけど……」
『それはやめておく方が賢明だ。以前にも言ったが、技というものは、本来こういう覚え方をするべきではない。シンプルな基本技ならまだしも、複雑な上級技の場合は、言うなれば、コピーの際のデータエラーに例えられるような弊害が起こる可能性が高く……』
「あー! わかった、わかったよ! わかったから、難しい説明をするのはやめてくれ、頭が痛くなる」
『まったく、相変わらず説明しがいのないやつだ』
「しかし、いくら達人級とはいえ、基本技だけじゃ、またアーニャが襲ってきたときに少々心もとないな……」
『それなんだが、ぬしは別に、奴と格闘技の試合をするわけではないのだから、強力な武器防具を装備すればよいのではないか? 奴は素手で軽装なのだから、それでかなり実力差は埋まると思うのだが』
あっ。
あぁっ。
ああぁぁぁぁ~っ!
そうだよ。
その通りだ。
こんな、単純で当たり前のことに気がつかなかったなんて。
ジムに通い、格闘術の習得に躍起になっていたことで、変に素手での戦いにこだわっていたが、強くなるために、強力な武器防具を身に着けるのは、もっとも基本的で確実な方法だ。
アーニャはジガルガが認めるほどの怪物なのだし、俺のような一般市民が(元魔物だけど)素手で立ち向かうなど、冷静に考えてみれば、狂気の沙汰である。
よっしゃ、思い立ったが吉日だ。
早速、超強力な武具を買いに行くとしよう。
ブロップ一家を壊滅させたときに貰った礼金がまだたんまり残っているし、相当良いものを選べるはずだ。
俺の知る限り、最高の品ぞろえの店は、以前、レニエルと一緒に買い物に行った、古道具屋である。
汗を拭き、ストレッチをすると、持ってきていた携帯食で腹を満たし、俺は古道具屋のある路地裏に向かった。
しばらくぶりだったので、店の場所がどこだったか、少々あやふやだったが、人間の記憶というのは、案外しっかりしているもので、実際に路地を歩くと、足が道順を覚えていたかのように、自然と古道具屋に到達することができた。
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