第114話 気になること
うごっ、胃が重たい。
そりゃそうか、大量のから揚げと、たっぷりの白飯が、この腹の中に詰まってるんだもんな。
首を動かし、肩に乗っているであろうジガルガを見る。
どういう理屈なのか、小さな彼女の体、そのお腹の部分が、たっぷり食べて満足したように、ぽこんと膨れていた。
『さて、心行くまで美食を堪能したことだし、今度こそ寝るとしよう。ふふ……これほどの満足感を抱いて睡眠に入るなど、初めての経験だ。実によく眠れそうだよ』
『食べてすぐ寝ると太るぞ』
『人間と一緒にするな。我々人造魔獣は、余剰エネルギーが増えたところで、体型が変化したりはしない』
『あっ、なんかそれってずるい』
『それではな……おやすみ……しつこいようだが、邪鬼眼の術者に、自分から接触をはかったりするんじゃないぞ……いいな……』
うつらうつらしながらも、俺を戒めるようにそれだけ言い、ジガルガの体はすぅっと霧散した。
自分から接触をはかるも何も、お前に警告されなければ、俺は奴に見られていることすら気がつかなかったんだ。こちらからどうこうする気はまったくないよ。
うぐ、それにしても、腹が重い。
さっきジガルガに言ったが、このまま寝ると確実に太るな。
少し、夜風にでもあたってくるか。
そう思って、テントから外に出ようとすると、入り口に近いところでうたた寝をしていたレニエルの足に、自分の足が軽く当たってしまった。
まあ、当たったと言っても、指先が触れた程度なのだが、それでも彼の眠気を覚ますには充分な衝撃だったらしく、レニエルはぱちりと目を開き、軽く頭を左右に振る。
「すまん、起こしちまったな」
「いえ、もともと、まだ本格的に寝る気はなくて、少し仮眠していただけですから。ちょっと、気になることがあって」
「そうか。まあ、まだ夜の八時過ぎだからな」
言いながら、俺は、先程ジガルガに警告された、邪鬼眼の術者が来ているという事実を、レニエルにも伝えるべきか考えていた。
少しだけ悩み、結局俺は、伝えるのをやめた。
ジガルガの話から推察するに、邪鬼眼の術者はじぃっとこちらを観察しているだけで、とりあえず今すぐ俺たちをどうこうする意志はないようだし、陰から見られていると知って、気持ち悪い思いをするのは俺だけで充分だ。
「あの、ナナリーさん。さっき、僕と話していたことを、覚えていますか?」
さっき、話していたこと?
なんだっけ。
うーん……ええっと、ええっと……
あっ、そうだ。
「確か、ウーフの言っていたことに、引っかかる部分があったって話だったっけ?」
レニエルは、小さく頷く。
「先程は、ソゥラさんが来たことで、話が途中になってしまったのですが、やはり、腑に落ちないんです。ウーフさんは、最初に会ったときに、言ってましたよね。邪悪竜を実際に見てはいないが、ピジャン神のお告げがあったから、竜がいることは確信しているって」
「ああ、確か、そうだったな」
「そして、ついさっきは、遠くにそびえたつハリボテのドラゴンを、邪悪竜だと言って、集落の人々の畏怖心をかきたてていました。それなのに、先程、別れ際に言ったんですよ。『邪悪竜はいませんでしたが』って。彼自身は、ハリボテドラゴンを遠目に見ただけで、実際に作り物かどうか確認していないのに……」
そこで、ずっと俺の心に残っていたモヤモヤが、さぁっと晴れた。
そうだよ。
俺も、そこが変だと思ってたんだ。
あの時のウーフの態度。
まるで、邪悪竜など最初から存在していないことを、知っていたようだった。
そして、とっとと報酬を払って、俺たちをスーリアから追い出したがっているような……
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