第100話 奴らの巣

 ウーフとソゥラは、小さくこちらを振り返り、微笑を浮かべて頷いた。

 よかった、先程は怒鳴りあっていたが、心の底まで互いへの怒りが浸透しているというわけでもなさそうだ。


 さて、気を取り直して、探索を続けるとしよう。

 オーラを探知するイングリッドを先頭にして、次に俺、最後にレニエルという並びで湿地をぐんぐん進んで行く。


 不意に、背後のレニエルから声をかけられた。


「ウーフさんとソゥラさん。帰り道で、喧嘩したりしていないでしょうか」

「うぅん……まあ、大丈夫だろ。一応、落ち着いてたみたいだし」


 そんな俺たちの会話に、イングリッドが割り込んでくる。


「どうかな。親子、兄弟、姉妹。家族間のことというのは、血を分けた者同士、他人にはどうしても分からんことが多々あるからな」

「ふーん、いつになく理知的な言い回し。お前、家族間のことには、なんか一家言いっかげんあるわけ?」


 その問いに対して、何秒間待っても、イングリッドの返答はなかった。


 会話に入って来て無視かよ!

 と思ったが、あまりしゃべりながら歩くと、湿地に足を取られるので、俺は口を閉じ、集中して歩くことにした。


 そして、それからさらに一時間、俺たちは歩き続けた。

 突然、イングリッドが発声する。


「近いぞ。もう少し行ったところに、大トカゲのオーラ反応が、10以上固まっている。ここが奴らの巣に違いない」

「よっしゃ、それじゃ、戦闘態勢を取るとするか。さっきは、服を溶かされてカッコ悪いところを見せたからな。俺もちょっとは活躍しないと」


 歩きながら準備運動をしていると、レニエルの緊張した声が聞こえてくる。


「それにしても、10以上ですか。陣形を組んで攻めてこられると流石に苦戦しそうですね」


 イングリッドが剣を抜き、平然と言う。


「問題ない。あの程度の魔物、私なら、一振りで四匹は同時に始末できる。三回振れば、それで終わりだ」


 まったく、敵だと怖いが、味方だと頼もしい奴だよ。

 やがて、林を抜け、茂みをかき分けると、少し開けた地形に出た。


 いた。

 前方20メートル先。

 すり鉢状の窪地に、例の大トカゲが、12匹。


 何をするでもなく、二足歩行で突っ立って、ぼーっとしている。

 俺は小さな声で、イングリッドに言う。


「なんだあいつら、突っ立って、目開けたまま、寝てるのか?」

「わからん。だが、魔物とはいえ、あんな状態の敵を倒すのは気が引けるな。もっと、ガーッと襲ってきてくれないと」

「いや、あれだけの数で、ガーッと襲ってこられるのも困るが……」


 俺たちが話している間に、レニエルはあちこち見まわして、何かを観察している。そして、不思議そうに首を傾げ、口を開いた。


「おかしいですね。あの大トカゲたちが竜の眷属だとして、どこにも親玉らしき竜がいません。2メートルはある大トカゲを大量に生み出せるほどの竜なら、普通は10メートル以上の巨体のはず。どこかに潜んでいても、その姿を目視できないなんてことはないと思うのですが……」


 イングリッドが、ふんと笑って、どこか勝ち誇ったように言う。


「やはりな。こんなことだろうと思ったよ。邪悪竜など存在しないのだ。突然変異か、あるいはどこかから流れてきた、二足歩行のトカゲ型魔物の集団が、徒党を組んで集落を襲っていただけなのだ」


 状況を見るに、どうやらそうらしいな。

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