第97話 竜の巣を目指して

 いきなり自分の剣と話しだした女騎士に、ウーフは若干引き気味だが、自信に満ちたイングリッドの様子から、迷っても集落へ簡単に戻れるという話は、信用することにしたらしい。


「しかし、肝心の邪悪竜を見つけることは、簡単ではないと思いますよ。襲われた集落には、特に規則性はなく、眷属もどこからやって来るのかよくわかりません。とにかく、邪悪竜を探すにも、手掛かりがまったくないのです」


「それも問題ない。さっきの、あの大トカゲ共の死骸があるからな」


「邪悪竜の眷属の死骸が、何かの役に立つのですか? 今頃、テントの中に避難させていた集落の皆が協力して、土に埋めていると思いますが……」


「なに? それは困る。今すぐやめさせないと」


 言うが早いか、イングリッドはテントの外に飛び出していった。

 なんだかよく分からないが、焦っていたので、俺とレニエル、それにウーフも、後に続く。


 外に出た途端、強い日差しと、むあっとした湿気が体にまとわりつき、蒸し暑い。クーラーの効いた部屋から、梅雨時の外に突然出たような感じだ。


 ウーフの言った通り、集落の端の方で、体格の良い数人の原住民が穴を掘り、今まさに、その中に大トカゲの死骸を放り込もうとしている。


 それを、イングリッドは制止した。

 何やら、身振り手振りを交えて、原住民の男たちを説得しているようだ。


 彼らは、突然現れた女騎士を、奇特な表情で見つめていたが、後からウーフが追い付いて説明すると、素直に言うことを聞いた。


 やれやれという感じで、イングリッドは鞘からコユリエを抜くと、その切っ先を大トカゲに向ける。

 そして、一秒……二秒……三秒。

 四秒目で刃を持ち上げ、再び鞘の中に剣を戻した。


「これでよし。すでに死んでいるから、解析にちょっと時間がかかったが、この大トカゲのオーラは覚えた。後は、こいつらが沢山いるところを目指せば、親玉のねぐらにたどり着けるはずだ」


 おお、なるほど。

 ウーフの話通り、次々と大トカゲが生み出されているのなら、そいつらが一番多くいる場所が、邪悪竜の巣である可能性が高い。


「へえ、ナイスアイディアだ。やるじゃん、イングリッド」

「ふふふ、どうだ。私だって、こうやって博識をアピールできるんだぞ」


 博識アピールとはちょっと違う気がするが、本人は上機嫌なので、茶々を入れることもないだろう。俺たちは集落で水と食料を補給させてもらい、早速邪悪竜の巣を目指して出発した。


 道中、危険な地形を回避したり、毒のある植物に触れてしまうことがないようにと、ウーフもついてきてくれた。先程の大トカゲとの戦いを見る限り、彼もなかなかの使い手のようだし、頼もしい限りである。


 イングリッドを先頭に、集落を出発してから一時間が経った頃、俺たちは、先程とは別の集落に到達した。


 ……いや、正確には、集落だった場所、と表現するべきだろう。


「こりゃ、酷いな……。何もかも、燃やし尽くされたって感じだ……」


 俺が今言った通り、テントらしきものは全て炭化してボロボロになっており、あちらこちらに、元は何だったのか判別不可能な黒い塊が転がっている。

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