第51話 果し合い

 レニエルは、レニ坊というあだ名を、案外気に入っているらしい。

 ちゃんづけで呼ばれるより、レニ坊の方が、男扱いしてくれているからだろう。


「可愛くていいと思うがのう」


「まあ、あだ名のことは今はいいや。あんた、大怪我したって聞いたけど、意外と平気そうだな」


「大怪我って言っても、鎖骨をちょっとやっただけじゃからの。薬草貼っておけば、数日で治るわい」


 ゲインは、自身の首元をトントンと指で叩いた。

 そこには、薬草で作った湿布が張り付けてあり、室内には独特のにおいが立ち込めている。


「それでも、痛みはあるでしょう。それが和らぐように、治癒の魔法をかけておきますね」

「おお、こりゃ気が利くのう。さすが、プリーストの回復魔法は、体に染みるわい」


 レニエルが屈んで、ゲインの傷に魔法をかける。

 そうしながら、二人は会話を続ける。


「あの、ゲインさん。リモールの聖騎士と果し合いをされたそうですが、どうしてそんなことになったのですか?」


「ん? ああ、あの赤毛の嬢ちゃんのことか。どうもこうもないわい。昼から酒場で一杯やってたら、突然勝負を申し込まれたんじゃ。『ご老人、その身にまとう闘気、相当な使い手と見た。私と勝負してくれ』とな」


「昼から酒飲んでんじゃねえよ」


「んもー、いいじゃろ、別に。いつ酒飲んでも自由なのが、冒険者のいいところじゃ」


「ナナリーさん、話の腰を折らないでください」


「はーい」


 レニエルに叱られたので、俺はキュッと唇を結んで黙った。


「それで、ゲインさんはどうしたのですか?」


「すこぶる良い女じゃったからの。赤毛の嬢ちゃんが負けたら、ワシの言うことを何でも聞くという条件で、勝負を受けたのよ」


「このエロジジイが」


「ナナリーさん」


「はーい」


「それで、人気ひとけのない空き地に、立会人としてタルカスを呼び出して、嬢ちゃんと戦ったんじゃが、それがもう、強い強い。まあ、酒が入っとったせいもあるが、たとえ素面しらふでも、ワシは負けとったじゃろうな」


 このゲインの腕の冴えを知っているだけに、俺はその女の強さに、素直に感心した。


「へぇ。とんでもない女がいたもんだな」

「なんでも、武者修行の旅をしているとか言っておったの。そんで、強そうな相手を見つけては、手当たり次第に勝負を挑んでおるそうじゃ」


 やはり、レニエルのことと、彼女がアルモットに来たことは関係ないようだ。

 とりあえずは、一安心である。

 俺とレニエルは、互いに目を見合わせて、小さく頷いた。


「それにしても、強そうな相手を探して勝負を挑んでるなら、タルカスとも戦いたがったんじゃないか?」


「その通り。しかし、タルカスは知っての通りの超奥手男じゃ。赤毛の嬢ちゃんに『いざ尋常に勝負!』と言われたが、小声でボソボソと『私は女性とは戦えない』と囁いて、一目散に逃げて行ったよ」


「ははっ、だろうな。それじゃ、女騎士様も諦めるしかないわな」


「いえ、彼女は諦めないと思います。一度戦いたいと思った相手とは、何があっても戦うはずです」


 レニエルが、厳しい顔で言った。

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