第50話 赤髪の女騎士

「果し合いって、時代劇みたいだな。しかし、世の中広いな。あの爺さんが、真正面から戦って負けるなんて。相手はどんな奴だ? やっぱ、熊みたいな大男か?」


「私は実際に見たわけじゃないので、ハッキリしたことは言えないんですけど、赤髪の女の人だったらしいですよ。それも、なんか凄い仰々しい、白銀の甲冑を着た、いかにも女騎士って感じの」


「ふぅん。凄い女がいたもんだな」


 白銀と言えば、レニエルの着てた聖騎士の鎧も、白銀の仰々しい甲冑だったな。

 そう思ってレニエルの方を見ると、その小さな顔に、緊張が走っていた。


 俺が『どうした?』と尋ねる前に、レニエルは乾いた唇を一度舐め、言葉を発する。


「あの、マチュアさん。その女の人の名前、分かります?」


「えっ? ああ、はいはい、果し合いの立会人をしたタルカスさんが、言ってたような気がします。……え~っと……なんだったかな……イン……インダ……いや、違うな……インガ……インク……うぅ~ん……なんだっけ」


「もしかして、『イングリッド』というのでは?」


「あー! それですそれです! なんちゃら騎士、薬剤のイングリッド! そんな名前でした!」


「彼女の二つ名は『薬剤』ではありません、『厄災』のイングリッドです」


 マチュアの発言を訂正したレニエルに、俺は尋ねる。


「お前、なんでそんなこと知ってるんだ? ゲインの果し合い相手と、知り合いなのか?」


 レニエルは、一度深呼吸して、言った。


「イングリッドさんは、リモール王国の聖騎士です。それも、騎士団の中で、最強の七人――『七聖剣』の一人」


 俺は、マチュアに聞こえないように、レニエルの耳元で囁く。


「聖騎士だって? まさか、お前が生きてるのを知って、始末しに来たとかじゃないよな?」


「そうであるならば、聖騎士は王命第一ですから、ゲインさんと果し合いなどせずに、一目散に僕のところに来るでしょうから、多分違うと思います」


「だよな」


「しかし、彼女が何のためにこの商業都市アルモットに来たのか、一応調べてみた方がいいかもしれません」


「よし、そうしよう」


 俺は、今日は依頼を受けないことをマチュアに伝え、ゲインの自宅の場所を聞いた。あの爺さんが、どういう経緯で聖騎士と果し合いをすることになったのか尋ねるためだ。


 ゲインの自宅は、この前行った古道具屋がある裏路地を、奥へ奥へと進んだところにある貧乏長屋だった。


「おい、爺さん。見舞いに来たぞ」


 建て付けの悪い戸を、ギィギィと引っ張って何とか開けると、こじんまりとした室内で、ゲインが座布団の上に腰を下ろし、お茶を飲んでいた。


 なんだ、骨を折ったって言っても、思ったより元気そうじゃないか。

 一応、色々と世話になっている先輩ではあるし、多少は心配したので、ホッとする。


「おや、ナッちゃんにレニ坊。わざわざすまんのう」

「そのナッちゃんっていうあだ名、やめろって言ったじゃん。カッコ悪い」


 この爺さんは、最近俺のことをナッちゃんと呼ぶ。

 それがギルド内に浸透し、良く知らない他のメンバーにも、時折ナッちゃんと呼ばれる始末である。

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