第47話 作られた理由
「なに?」
「気が変わった。我の作られた理由を教えてやる」
「言っても意味がないんじゃなかったっけ?」
「聞かれたことには答えるのが人造魔獣の
「そうだったな」
「それに……」
「それに?」
「もはや意味のないこととはいえ、一人くらいは、我が作られた理由を知っていてもいいと思ったのだ。ゼルベリオスの供養にもなるだろう」
「そうか。ゼルベリオスとやらを燃やしちまった俺としては、ちゃんと聞く義務があるな」
体を起こそうとする俺を、ジガルガは制止した。
「そのままでいい。大して長い話じゃない。……今より遥か昔、強すぎる魔力を持つがゆえに人々から迫害を受けていた一族がいた。我が創造主様もその一人だ。創造主様は一族以外の人類を憎み、復讐のため、最強の力を持つ魔獣を自らの手で作ろうとした」
「それがお前とゼルベリオスね」
「そうだ。しかし、我々が完成する前に、創造主様の寿命がこられた。だから創造主様は、人類への復讐の夢を子孫に託すため、我々に自らの力で成長するように命じて、魔導書に封じたのだ。我とゼルベリオスは、創造主様の想いに応えるため、本の中で長い時をかけて自己進化を続けた。創造主様の目指した、最強の人造魔獣になるためにな」
「ふむふむ」
「そして、とうとう最強の人造魔獣を名乗っても恥ずかしくない力を身に着け、創造主様の子孫が本から出してくれるのを今か今かと待っていたのだが、それが、こんな結末になるとはな……」
そこで、ジガルガの話は終わった。
俺はこいつが、なんとなくレニエルに似ていると思った。
自分以外の、大いなる意志に翻弄され、今日、一生を終えようとしていたのだ。
そして、頼まれたこととはいえ、こいつが封じられていた本を処分したのは、他でもない俺なのだ。
なんだか、責任を感じる。
俺は、キュッと結んだ口を、軽く開いて、呼びかけた。
「なあ」
「なんだ?」
「その、お前の相棒――ゼルベリオスのことは、悪かったな」
ジガルガは、『奇妙な言い回しだ』とでも言いたげな様子で、笑った。
「ふっ、相棒という言い方は適切じゃない。ゼルベリオスは、いわば我が肉体そのものだ。ゼルベリオス自体に意志や心はない。そういうのは、我の担当だからな」
「そうか。よくわかんないけど、どっちにしろ、悪かったよ」
「さっきも言ったが、おかしな奴だ。人間は普通、作り物の人造魔獣に謝ったりしない」
「そうさ。俺はちょっとおかしいんだよ」
「そのようだな。……喋り過ぎて、少し疲れた。我は眠るぞ」
その言葉を最後に、部屋の中を深い静寂が包み込む。
なんとなく気になって、俺は振り返ってみた。
先程まで、ジガルガがいたであろう場所には、何もなかった。
「ジガルガ?」
名を呼んでも、返答はない。
俺の側じゃ、寝返りを打たれた時に潰されかねないと、どこか別のところに行って寝てしまったのか。
そういえば、俺も眠たい。
凄く眠たい。
闇の中、ちらりと時計を見る。
もう寝ていないと、明日起きるのがキツイ時間だ。
やれやれ、早めに床に就いたというのに、ずいぶんと話し込んでいたので、結局かなりの夜更かしになってしまった。
俺は、最後に一度あくびをかくと、瞳を閉じ、そのまま眠りの世界に落ちて行った。
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