第36話 髪切れば?

 俺たちは、重厚なドアを開けて店内に入った。


「おぉ……っ」


 思わず、歓声が漏れる。

 中は、小規模な建物の外観通り、狭くて雑然としているが、もちろんそんなことに対して歓声を上げたのではない。


 見るからに価値の高そうな武具、魔導書の数々が、あちこちに無造作に置かれていたから驚いたのだ。


「こりゃ凄い。表通りの商店じゃ、ちょっとお目にかかれない業物わざものの山だ」

「そうなんですか? 僕にはあまり価値が分かりませんが……」

「ふふっ、俺、結構こういうの、目利きできるんだよ。割とたくさんの武器で殺されかかったからな」


 シルバーメタルゼリーのときにね。


「ナナリーさん……壮絶な人生を歩んでこられたのですね……」


 慈悲深い瞳で、しみじみとそう呟くレニエルを放っておいて、俺は宝の山を漁る。

 レニエルには例の聖騎士の剣があるし、俺は魔法で攻撃するから、とりあえず武器はいらない。必要なのは、軽くて扱いやすい防具だ。


 何か掘り出し物はないかと店主に聞きたいが、俺たちのほかに人の気配はない。


 仕方なく、黙々と品物を見分していく。

 いくつか、良さげなものが見つかった。

 まずは、レニエル用の軽鎧だ。

 小さなマントもついており、なかなかの仕上がりである。


「なあ、これ、いいんじゃないか? 軽くて頑丈そうだ」


 黒を基調とした精悍なデザインだし、きっとレニエルも喜ぶだろう。

 ……そう思ったのだが、俺の予想に反し、レニエルはあまり気に入っていないようだった。


「なんだ? 不満なのか?」

「いえ、そう言うわけではありませんが……」

「どう見ても不満って顔じゃん。どこが気に入らない? 結構カッコイイと思うんだけど」

「その……腰回りのところ……何と言いますか、ミニスカートみたいなんですけど……」


 ああ~……

 なるほど。

 言われてみると、動きやすさを重視しているのか、ミニスカートみたいだ。


「でも、軽鎧なんて大体そんなもんだろ。そんなの気にしてたら、ゴテゴテの重装備しか着けられないぞ。どうせ、下にはズボンか何か履くんだからいいじゃん」

「まあ、それはそうなんですが……」

「な? それじゃ、お前の装備はこれで決まり!」

「はぁ……まあ、ナナリーさんがそこまで言うなら……」


 渋々という感じで、レニエルは承知した。


「あのさ。前から思ってたんだけど、そんなに女に間違われるのが嫌なら、髪の毛を思い切って刈り込むとか、いっそのこと丸坊主にしてみたらどうだ? そんなふうに、髪を肩辺りまで伸ばしてるから、余計に誤解されるんだと思うぞ?」

「もう試しましたよ」

「えっ? どういうこと?」


 短いレニエルの返答に、俺も短く聞き返す。


「だから、髪を刈り込むのも、丸坊主にするのもです。修道院にいたころに、どっちも試しました。でも……」

「でも?」

「余計に目立ってしまって、道行く人の注目を集めるので、恥ずかしいからやめたんです……」


 俺は、爆笑しそうになるのを必死でこらえた。

 そりゃ目立つわ。

 絵に描いたような美少女が、スポーツ刈りや丸坊主で歩いてたら、俺だって二度見する。

 なるほど、結局、髪を自然に肩のあたりまで伸ばしておくのが、一番無難というわけか。

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