第37話 宵闇の鎧

 俺は、時折思い出し笑いをしながら、今度は自分の装備品を探す。

 シルバーメタルゼリーの俊足をより活かせる、いいアイテムはないかな。

 そう思いながら、いろいろ物色していると、店の奥からしわがれた声が響いて来た。


「やれやれ……今日は定休日なんだけどね……」


 俺とレニエルは声の方に目をやる。

 そこにあったのは、黒いローブ。

 変な表現だが、本当に、黒いローブだけが、天上から吊り下げられているかのように、そこにあるのだ。


 俺は、さほど驚かなかった。

 どうせ、玄関と同じく、何らかの幻影の魔法を使っているのだろう。

 どうやら、人に顔を見せたくない、シャイな店主らしい。

 俺は一応、無遠慮に店へ入った非礼を詫びた。


「あんたが店主さんかい? 勝手に入って悪かったね。でも、鍵がかかってなかったからさ」

「ああ……鍵はいつもかけておかないのさ……面倒だからね……」

「おいおい、そんな防犯体制でいいのかよ」


 黒いローブは、軽く揺らめいて笑った。


「ふふ……どんなにしっかり施錠しても、上級魔導師が解錠の呪文を使えば一発だからね……幻影の魔法で、ただの廃屋みたいに見せておくのが、一番安心なのさ……」


「ふぅん、なるほどね」


「それに、この店の品物には皆、一つ一つ丁寧に呪いをかけてある……勝手に持ち出せば、一週間と経たずに、もがき苦しんで死ぬのさ。それから、自然と私の元に品物が戻ってくるようにしてある……」


「平然と恐ろしいことを言う黒ローブさんだ。まあ、俺たちはちゃんとした客だから、関係のない話だな。定休日なところ悪いけど、この軽鎧、売ってもらえないかな?」


「おや……お嬢さん、お目が高いね……こいつは『宵闇の鎧』……革で作った鎧のように軽いが、物理的にも、魔法的にも、強固な防御力を持つ逸品だよ……」


 俺は、どんなもんだいと言うように、レニエルに目配せする。

 レニエルは、俺の目利きに、素直に感心したようだった。

 黒ローブが、見えない唇を動かして『宵闇の鎧』の値段を言うと、俺は小さくため息をついた。

 それが、なかなかの高額だったからだ。


 まあ当然か。

 良い品は、それなりに値が張るものだ。

 所持金の三分の二が無くなってしまうが、これでレニエルの身を守れるなら安いものだ。


 俺は、この鎧を買うことに決めた。

 店主に金を渡し、それから、残りの所持金を提示して、今度は俺自身の装備品について相談する。


「なあ、あとこれだけの手持ちで買える、良い防具はないかな? 軽くて、頑丈で、魔法にも強くて、足さばきを邪魔しない、動きやすいやつがいいんだけど。あっ、見た目もカッコイイ方がいいな」

「そりゃまた随分ワガママな注文だね……でも、一つ心当たりがあるよ。あそこの棚の裏を探してみな……」


 黒ローブの裾が軽く上を向き、とある棚の上部を指し示す。

 俺よりもその棚の近くにいたレニエルが、背伸びをして一生懸命に棚の裏を探り、ひらひらとしたワンピースを見つけた。


「ふぅ……取れました。これですか?」

「んなわけないじゃん。それ、ただの服だろ」

「いや、それであってるよ……」

「マジで?」

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