第33話 廃教会へ

「昨日が蝙蝠人間退治で、今日は邪神退治かよ。いきなりハードル上がりすぎだろ」


 町から少し離れた森の中にある、荒れ放題の古びた教会の前。

 俺は、今にも崩れそうなボロいベンチに腰掛け、腕組みしながらレニエルに言う。


「でも、大丈夫ですよ、たぶん。低級の邪神は、上級モンスターと同程度の力しかないらしいですから」


 レニエルは、剣を抜き、素振りをしている。


「それって、上級モンスターと同じくらいは強いってことじゃん。油断できないよ。……もうすぐ、出てくるんだよな。緊張してきた」


 今、ゲインとタルカスは、廃教会の中に入り、そこに居着いている低級邪神を、太陽の下に追い出そうとしている。


 なんでも、邪神というやつは、暗くジメジメしたところが好きらしく、強力な日の光にさらされるとパワーダウンするという。


 そこで、俺とレニエルが、廃教会前の広場で待ち伏せし、飛び出てきた邪神に対して、俺は熱光の攻撃呪文を、レニエルは光輝の神聖魔法を使い、太陽の光とミックスさせて、一気に消滅させてやろうという作戦なのだ。


「なあ、お前、素振りとかやってていいの? 今まさに、邪神が飛び出てくるんだぞ?」

「何かしてた方が、落ち着くんです。じっと待ち構えてると、硬くなって、いざという時に行動できない気がして……」

「あー、なるほどね。俺も何かしてようかな。そうだ、服のほつれでも直そう」


 俺は、手荷物からソーイングセットを取り出し、スカートを膝のあたりまでめくると、これまでの旅やら昨日の冒険やらでほつれてしまった部分を、直していく。


「へえ、ナナリーさん、器用なんですね。本職のお針子さんみたいですよ」


 褒められ、休まずに手を動かしつつも、俺はフフンとドヤ顔になる。


「自分でも、思った以上にうまくできて、驚いてるよ。もしかして、前世で裁縫が趣味だったのかもね」


「前世?」


「いや、こっちの話さ。それにしても、冒険者をやるなら、俺もお前も、もう少し頑丈な服や装備を買った方がいいかもしれないな」


「そうですね。一生懸命依頼をこなしてお金を溜めて、何か良い装備品を購入しましょう。……ちょっと、ナナリーさん、スカート、捲り上げすぎですよ。はしたない」


「だって、こうしないと、先の方、上手く縫えないんだもん」


「なら、あっちの方を向いてやってください。下着が見えてしまいます」


「別に見えてもいいのに……」


 面倒くさいが、まあ、ここは素直に従うとしよう。

 レニエルに背を向け、荒れたスカートの先端をチクチクと補修する。


 できた。

 我ながら見事な出来栄えだ。


 一仕事終えた達成感で、ここに何しに来たのかを忘れそうになっていた頃に、廃教会から声が響いた。


「お嬢ちゃんたち! 出番じゃ! そっちに行ったぞい!」


 よしきた。

 待ちくたびれたぜ。

 俺とレニエルは頷き合い、廃教会の入り口を見張って、構えを取る。


 べちゃ、びちゃ、ぐちゃ。

 嫌な水音と共に、小山のようなヘドロの塊が現れた。

 中央には、人間の眼球に似たものがある。


 こいつが低級邪神か。

 なるほど、邪悪な感じがぷんぷんしやがる。

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