第34話 浴びせる閃光

 しかし、こんなでかいの、ゲインとタルカスはどうやって追い出したんだ。

 並の冒険者なら、薄暗い建物の中でこの邪神と向かい合えば、それだけで戦意喪失してしまいそうだ。


 その時、邪神の背後で炸裂音がした。

 同時に、どこにあるかもわからない邪神の口から、悲鳴に似た轟音が上がる。


 背伸びして見てみると、ゲインが邪神の後部に、鉄拳を叩き込んでいた。


 すげえな、この爺さん。

 邪神を殴りつけて追い出したってわけか。


 おっと、感心してる場合じゃない。

 俺は俺の役目を果たさないと。


 レニエルに目配せし、俺たちは同時に光系統の魔法を使った。

 辺りは目もくらむような閃光に包まれ、邪神の断末魔が響き渡る。巨大だった禍々しい体が、塩をかけられたナメクジのように萎んでいき、遂には消滅した。


 どうやら、作戦はうまくいったらしい。

 俺は、ホッと息を吐いた。


「なんだ、拍子抜けするくらい、簡単だったな」

「そうですね。なんだか、最初から弱ってる感じでしたし……」


 レニエルも、額の汗を拭いながら言う。

 その汗は、邪神を前にした緊張感からよりも、先程からずっとやっていた素振りのせいだろう。


 それくらい、あっという間に決着がついてしまった。

 ゲインが、戦闘直後の体をほぐすように、ぐるぐると肩を回しながら近づいてくる。


「上手く仕留められたようじゃの」

「ああ、邪神って言っても、大したことないんだな」

「まあ、ある程度、光の下に追い出すまでに、痛めつけてやったからの」

「……なあ、別に俺とレニエルがいなくても、あんたらだけで、やっつけられたんじゃないのか?」


 ふと、疑問に思って聞いてみる。

 ゲインは、カラカラと笑った。


「叩きのめすだけならの。でも、完全に消滅させようと思ったら、やっぱり光の魔法が使える人間が何人か必要なんじゃよ。それにしても、低級の魔導師なら5~6人くらいで一斉に魔法を照射しなきゃならんところを、お嬢ちゃんたちは二人で軽くやっちまったんだから、その若さで、なかなかたいしたもんじゃな」


「ふぅん。じゃあ、一応俺たちも役に立ったと思っていいのかな?」


「もちろんじゃ。報酬も、きっちり四等分するぞい。それでよいな、タルカス」


 ゲインにそう問われ、いつの間にか教会から出てきていてたタルカスが静かに頷いた。働いた時間の比率を考えれば、報酬四等分は、かなり気前の良い話だ。


 先輩の厚意に、俺は素直に感謝する。


「爺さん、あんた、第一印象は最悪だったが、案外良い人だな。見直したよ」


「案外も何も、元からワシは良い人じゃ。時々無性に女の体を触りたくなるのだけが玉にきずじゃがの」


「いい歳こいてるんだから、もうそういうの卒業しろよ……」


「何を言うとる。ワシに言わせれば、歳くったくらいで、女に関心がなくなるような男は腑抜けじゃ」


 まったく、大したスケベ爺さんだ。


 その後、隙を見計らって俺のケツを触ろうとしてくるゲインの手を何度か火の粉の魔法で軽く焼きながら(あまりにも小さい火の粉なので、回し受けとやらでも防げないらしい)、俺たちはギルドへ帰った。

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