第6話 恐怖のグレートデーモン
「実を言うと、今朝勤め先を辞めて、安全で快適な新天地を探して旅に出たんだ。……酷い労働環境でね。今まで命があったのが不思議なくらいだよ」
「そうなのですか……お若いのに、苦労なさっているんですね」
年寄りじみた彼の物言いに、俺は軽く吹き出してしまう。
「『お若いのに苦労なさっている』のはお互い様じゃないか? きみ、見たところ12~13歳だろう? その若さで魔王討伐なんて、無茶にもほどがある。悪いことは言わないから、やめときなよ」
そこまで一息に言い切ってから、随分と上から目線で感じの悪い言い方だと気がついた。
いけないな。
酒場のマスターと会話していた時も思ったが、俺は少々軽口が過ぎるし、態度もよろしくない。
今朝まで身も心も魔物だった影響か、はたまた前世の俺もこんな性格だったのか……
しかし、レニエルは気を害した様子もなく、俺に頭を下げた。
「僕の身を案じてくださるのですね。ありがとうございます。でも、どうしても、行かなければならないのです。それでは、僕はこれで失礼します」
そう言って、もう一度頭を下げると、レニエルは町の出口に向かって歩き出した。そこから街道に出て少し行けば、凶悪な最上級モンスターたちが待ち受けている。
おいおいおい。
こんな子供、奴らなら小指一本でズタボロの雑巾みたいにできるぞ。
俺は、レニエルを追いかけた。
自分には関係のないことだし、放っておけばいいとも思ったが、やはり見殺しにはできない。
先程ピンチから救ってもらったということもあるが、それ以上に彼が『良い子』だったからだ。
聖騎士だということを鼻にかけ、
しかし、レニエルの澄みきった瞳には、思い上がりも嘲りもなかった。
本当に、心からの善意で俺を助けてくれたのだ。
子供ゆえの純真さもあるのだろうが、それにしたって、こんな好人物、そうはいない。ここで彼をみすみす死なせては、バチが当たりそうだ。
俺は、レニエルの背に追いすがりながら、諭すように言った。
「なあ、おい、待てって。俺は、これまで何度も見てきたんだ。凄腕の冒険者どもが、魔王城につくどころか、この先の街道でモンスターたちに
うーむ……
やっぱりどことなく感じの悪い言い方になってしまう……
チンピラか俺は。
しかし、俺の粗野な言葉も多少は効果があったらしい。『惨たらしく殺される』という響きに、毅然としていたレニエルの歩みが若干鈍った気がした。
「し、しかしそれでも、僕はいかなければ……」
レニエルの言葉には、先程より明らかに力がなかった。
しめた。
おじけづいたか。
俺は、畳みかけた。
「まず、街を出てすぐのところにたむろしてるのは、グレートデーモン。怪力と俊敏さを併せ持った化け物だ。おまけに、ある程度の魔法も使いこなす。でもそんなことは大した問題じゃない。あいつらの一番怖いところは、その残忍さだ。奴ら、獲物をすぐには仕留めずに、動けなくしてから○○して○○すると○○を○○するんだぜ……」
「そ、そんな……酷い……」
「いやあ、こんなのまだまだ序の口さ……考えてもみろよ、ただの街道にそんなのがうろついてるんだぜ。魔王城付近には、もっともっとヤバイ奴がゴロゴロいる」
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