夏になりました。

木々は緑に覆われ、青空には大きな入道雲がポッカリと浮かんでいます。



ルドルフとハンナは、汗まみれ、土まみれになって一生懸命に土を耕します。


ルドルフはポケットから種を取り出すと土の中に埋めました。

ハンナは不思議そうにルドルフにたずねます。


「ねえ、ルドルフ?どうしてこんなところに植えるの?畑はもっとむこうよ。それに一体、何の種?」


土を払い、立ち上がったルドルフは、村の真ん中の大樹を指差しました。



「先月、大嵐があったのを覚えているかい?」


もちろんハンナは覚えていました。


その日は、大嵐。


そこかしこで落雷があり、雷で民家が出火。

火は燃えうつり大火事が起きた村があったほどでした。


しかしルドルフとハンナの

村では火事は全くありませんでした。


なぜなら雷がすべて大樹に落下したため、

家々に雷が落ちることがなかったからです。


しかし代わりに大樹は真っ二つに割れてしまい、

枯れるのも時間の問題となっていました。


「あの大樹がハンナと僕、それに村を守ってくれた。けどそのせいであんな姿になってしまった。秋には枯れてしまうだろうね」


「かわいそう。樹齢千年だったんでしょ?」


ハンナは寂しそうに大樹を見上げました。


「だから植えるのさ。あの大樹の種を」


ルドルフは汗を拭います。


「大樹は枯れてしまったけど、その種を育てて恩返しをしなきゃ。今度は僕達が守る番だよ」


「でもあんなに大きくなるには千年もかかるんでしょ?千年も先の事、想像がつかないわ」


「あの大樹も千年前の誰かが植えたんだ。僕達と次の世代。そのまた次の世代がじっくり育てていけば、いつかきっとあの樹のようになるさ」


ルドルフは遠い目で空を眺めると、

ハンナも同じように大樹を見つめました。


すると突然。


ルドルフのお腹がグーとなりました。


アンナは思わず吹き出します。


「千年後より、まずは今日のお昼ご飯ね」


二人は笑いながら家の中へ入っていきました。


強い風が吹き、大樹の葉をザワザワと揺らしました。


ルドルフは幸せでした。

そしてハンナも幸せでした。



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