クリスマスまでには…
ヨシダケイ
春
今から百年以上まえの話です。
ドイツのとある小さな村に、ルドルフという名の若者が住んでいました。
ルドルフは真面目で誠実でしたが、
幼い頃に両親と死別したため、家は貧しく
暮らしに余裕はありませんでした。
そんなルドルフには愛する女性がいました。
名前をハンナといいました。
ある時ルドルフは、
村の真ん中にそびえる樹齢千年と伝えられる大樹の下に、
ハンナを呼ました。
春爛漫の季節。
花は咲き乱れ、鳥たちはさえずり、青空はどこまでも続いています。
「ハンナ。僕は貧しい。けど絶対に君を幸せにする。結婚してください」
ルドルフはグッと目を瞑り、結婚指輪の箱をハンナに差し出しました。
それはルドルフにとって、これまでの人生で一番勇気を振り絞った瞬間であり、
また永遠ともいえる長さに感じられました。
しかしいつまで待ってもハンナの返事はありません。
ルドルフは、目の前が真っ暗になりました。
愛するハンナと一緒になれない人生など考えられなかったからです。
嘆き悲しむルドルフでしたが、見上げるとハンナはきょとんとしています。
「ルドルフ。指輪入ってないわよ」
ルドルフは大慌てで箱の中身を確認しますが、確かに中は空っぽ。
ルドルフはハッと思い出しました。
今朝、指輪を渡す練習を何度も何度もしたため、
指輪をポケットに入れっぱなしだったことを。
ルドルフは、そんな間抜けな自分が嫌になり、
ハンナも呆れているだろうと落ち込みました。
しかしルドルフの不安をよそにハンナは大笑いしています。
「ホント、ルドルフはダメねぇ」
そういいながらもハンナはいつもの優しい笑顔でした。
ルドルフは急ぎポケットから指輪を取り出すと
「ハンナ。あった、あったよ。これだ。ゴメンよ」
とハンナの手を優しく握りました。
「受け取ってくれるかい?」
ハンナが恥ずかしそうにうなずくと、
ルドルフはハンナの左手薬指に指輪をはめました。
ルドルフとハンナ、
二人は手をつなぎ家へ入っていきました。
大樹の枝葉が静かに風に揺られました。
ルドルフは幸せでした。
そしてハンナも幸せでした。
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