焔ノ狐神・1
「駄目だ」
「そなたに貸す理由がない」
「縁の力――【渡し神】の飛翔。その全てであれば、あるいは我が力、貸すとしようぞ」
「事情は分かったが、しかしなあ……」
「……興味が無いね」
(……駄目か)
試みは、依然として上手く行かない。
悉く芳しくない返事が返ってくるのみだった。
(手ごたえが無いわけではない。いくつかの柱には力を借り受けることができそうだが……しかし私がしようとしていること、せねばならぬ事のためには、到底それでは足りぬ……)
(…………)
(――しかし、ここがニライの地か。多くの神々がここに飛び立ったのにも頷ける)
ニライ郷。
そこには、原初の風景が広がっていた。
あちらではもう失われた、ありのままの姿が、その地には
(それに、信仰に対しなんと懐の広い地であるか。誰もが、
(……さて。所縁のある神の所へは出向いてしまった。ここからは足を使い、頭を下げに回るとしよう)
(事によっては……【あるまいてぃ】の神の元へも……)
表情優れぬまま、葉弥栄は翼で飛翔するのでなく、自らの足を使いニライの地へ腰を降ろす神のところへと出向いた。
「はっはっは! そのような申し出、受け入れられる筈も無し!」
「……帰って」
「失せろ」
断られ続けながらも。噂に聞き及んだ、かつて不滅と思われた縁の神の末路を冷笑されることがあろうとも、葉弥栄は失意を見せることはなかった。
神格乱すことなく、得ることのできた数少ない成果を見つめ――そして今取れる最善の決断を、静かに思い始めた。
(……神を捨てる他ない)
(対価を払った後、何者でもないナニカに身を落とし、木洩日を助けるほか……。……木洩日を助け出すまでは身も持とう)
それは、四肢を捥がれた残骸、あの常闇での有り様以上に無残なモノに成り下がるという決意であったが……葉弥栄は、恐れを感じることもなく冷静にそれを思っていた。
(それしかあるまい)
木洩日を助け出すため。
神格を再び輝かせ、そしてまごうことなき真心を見せてくれた幼子のため。
……何もしてやれなかったあの子のため、何を差し出してでも。
(私がそうしたい)
今のまま成果が得られなければそれすら厭わぬと、葉弥栄はそのとき、そう考えていた。
――事情が変わり始めたのは、まさに突然のことであった。
葉弥栄には何が起こったのかも分からぬ唐突で、事情は奇跡的な方向へ変化を見せた。
「おまえさんなぁ」
今一度頭を下げようと、
顔を合わせた途端に、その柱は呆れを顔に浮かべ、葉弥栄に声をかけた。
「そういうことは、早くに言わんか」
――そういうこと?
内心で首を傾げ、事の進む方向に緊張を浮かべる葉弥栄に、彼は言った。
「聞けば、お前が助けたいという幼子は、
(……早坂、桜?)
聞き覚えのない名だった。
そして彼は、続けて信じられぬことを言った。
「お主に力を貸そう。対価は豊作の力の欠片でよろしい」
「――た、大変に助かります。お礼の申し上げようもございません」
豊作の力。
木洩日を助ける事情には必要性の薄い力。明らかにその神は、葉弥栄の事情を慮っていた。
しかもその全てではなく、たった欠片――。
(どういったことだ……?)
葉弥栄は疑問に思ったが――しかしその奇妙、突然吹き荒れた追い風のような事情は、それだけで終わらなかった。
「早くに言いなさいよ」
「そういった事情とは関係が無いが……力を貸そう」
「はっはっは! あの
「興味はないが、話だけは聞いておこう」
「あい分かった。対価はその程度でよろしい」
――もちろん、全ての神が態度を翻したわけではない。
それでも相当数の柱が、葉弥栄の知らぬその事情故に、彼に神格の一部を貸し受け渡した。
(いったい……?)
(早坂 桜とは何者か?)
――そしてある神から事の事情を聞き及び、葉弥栄はその追い風を吹かせた神の元へと馳せ参じた。
その神の名は――。
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