第34話・薄雪姫の亡くした心
夜の宮殿に、宿泊二日目──夜だけの町にも、菌糸の根は広がりつつあった。
夜の宮殿の庭で、思案するウェルの姿があった。
「極楽号の深部に近づくほど、根が活性化している……一日も早く中心部に向かわないと」
ゾアは、数時間前から体調が悪くて部屋で寝込んでいる。
ウェルは、夜道を歩いてきたツギハギの雑用人博士を呼び止めると、何やら数分間の会話をした。
人造人間の博士が去ると、今度はオプト・ドラコニスと穂奈子がやって来た。
腕組みをして思案していたウェルが、オプト・ドラコニスに訊ねる。
「あの子の様子はどう?」
「あの子? あぁ、おばさ……」
「あぁん?」
ウェルウィッチアにギョロと睨まれた、オプト・ドラコニスは慌てて言い直す。
「姐さんに、失礼なコトを言ったゾアは、部屋で体調が悪いとか言って寝込んでいますよ」
穂奈子がオプト・ドラコニスの言葉を繋げる。
「ゾアには、クライさんが付き添っていてくれます」
「そう、やはり中心部に近づいてきた影響を心身に受けたのかしら……あの子には、正しい言葉の使い方を教えないと」
穂奈子が、ウェルに質問する。
「通行証どうやって、発行してもらうんですか?」
「う~ん、とりあえず父親に娘のコトを聞いてみましょうか」
ウェルたちは、夜の宮殿の主人の部屋に向かった。
部屋の中では、寝台に拘束された父親が放電球から迸る電流を、首に埋め込まれた電極に受けてリラックスしていた。
怪しげな装置を操作しているヤミーが、通電されている宮殿の主人に訊ねる。
「旦那さま、電圧の強さはどうですか? もう少し強くですか、畏まりました」
ヤミーがダイヤルを回すと、宮殿主人の体から火花が飛び散り、さらに激しく体が跳ねる。
ビクビクと痙攣している、宮殿の主人を見て心配したオプト・ドラコニスがヤミーに質問する。
「大丈夫なのか? それ? 旦那さまの体、魚みたいにビクビク跳ねているぞ」
「旦那さまにとっては、マッサージをされているようなモノです……なにかご用ですか?」
ウェルが、薄雪姫について訊ねると。
宮殿の主人の眼球が、ポンッと外に飛び出して床を転がる。
「うわぁ!? 目ん玉飛び出した!」
驚くオプト・ドラコニス、穂奈子は放心状態で固まっている。
転がる眼球を、足で踏み押さえて拾って。
軽く服で拭いて汚れを落としたヤミーは、慣れた様子で眼球を眼窩にもどして言った。
「いつもの、客人に語っている話しを新しい客人にもですか……わかりました」
ヤミーが話しはじめる。
「少し長い話しになるだべぇ。わたしは元々、マッドな科学者に創造された男だべぇ」
宮殿主人の話しだと、彼を創造した博士は、すでに亡くなっているらしい。
「わたしは創造主の博士から、科学知識を受け継いで。死んだ博士を甦らせて……今は宮殿の裏庭で雑用人として、こき使っているだべぇ」
ヤミーの口を通した宮殿主人の話しは続く。
「宮殿の主人となった、わたしは町の娘と恋に落ちて、娘の薄雪姫が生まれたべぇ……母親の町娘は薄雪姫が生まれて、間もなく事故で亡くなったべぇ」
臨終の間際に町娘の母親は『お願いだから、甦らせないで! 絶対にイヤだからね! あんな裏庭の博士みたいなツギハギの姿になるのはイヤだからね……大事なコトなので二度言いました……ガクッ』と遺言を残して亡くなった。
「遺言に従って、町娘の母親は人造人間で復活はさせなかったべぇ……ゾンビ液を振りかけて、ゾンビにして毎晩墓場を、仲間のゾンビ娘たちと楽しく徘徊しているべぇ」
そして、成長した娘の薄雪姫は。思春期の反抗心で父親と口論した際に発作的に、宮殿の窓を突き破って落下して亡くなり。
娘を愛する父親は、死んだ薄雪姫を人造人間として甦らせた。
「甦った薄雪姫は、表情も暗く、口もきいてくれなくなったべぇ……思春期の娘は何を考えているのか、さっぱりわからないべぇ」
腕組みをして、話しを聞いていたウェルが言った。
「そうでしたか、それは父親としては複雑な心境で……けっけっけっ」
ウェルウィッチアの首がストンッと床に落ちて、虫の足が生えた逆さ首が室内を走り回る。
シュールな光景だった。
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