第九章・極楽号内部【衛星国家サンドリヨン】

第23話・激突

 銀牙系を進む、巨大な眼球、衛星級宇宙船【極楽号】──そして、極楽号の内部に広がる衛星国家【サンドリヨン】


 極楽号の雛壇ひなだん状の船橋で、机の上に足を乗せた航行総責任者の東洋竜頭族【カプト・ドラコニス】が呟いた。

「自動航行だと、何もやるコトがねぇな」


 座席の隣にいる、ドラゴン型のペット生物の頭を撫でているドラコニスの言葉を聞いて。

 通信&情報処理総責任者で周期的に性別が変化する【ディア】が、古代文字が皮膚に浮かぶ少女の姿で微笑み言った。

「平和的でいいじゃないですか」


 離れた席に座っている、防衛迎撃総責任者でロップ種の疑似ウサギ耳を生やした、スダレ前髪の【鉄ウサギの月華】が、ドクロ模様が浮き彫りされた金属球を布で磨きながら言った。

「平和なのは結構だけど……退屈ねぇ」


 月華の隣席に座って、朱ヒョウタンに入ったノンアルコール飲料『救世酒』を飲んでいた、鼻梁に傷が残る剣客バグ【仁・ラムウォッカ・テキーララオチュウ・ギンジョウワイン】が。

「そりゃそうだ」と、言葉を繋げる。


 極楽号のクルーたちが雑談をしていると、自動ドアが開いてストローハットにオーバーオール姿の【織羅・レオノーラ】が、肩吊りの編みカゴに入った、果物を持って船橋に現れた。

 レオノーラの後ろから続いて遮光器土偶型異星人──織羅家財閥の執事【アラバキ・夜左衛門】も、同じようにオーバーオール姿でカゴに入った果物を持って現れた。


 レオノーラが言った。

「サンドリヨンの果樹園で、収穫した熟れた果物持ってきた……みんなで食べて」

 レオノーラと夜左衛門が、エアーシューターを使って船橋のクルーたちに、星模様や渦巻き模様の果物を配る。


 空気圧で手元に送られてきた、星形模様の果物をかじりながら月華がレオノーラに訊ねる。

「レオノーラさま、極楽号内部のサンドリヨンって、どのくらいの国民がいるんですか?」

「ボクにも、よくわからない……サンドリヨンの全地域を完全に把握しているワケじゃないし」


 極楽号の内部は、年輪かバームクーヘンのように幾層にも区切られている。そして、さまざまな種族が生活をしている。


 カプト・ドラコニスが口から火を吹きながら、レオノーラに訊ねる。

「そういやぁ、穂奈子の姿がここ三日ばかり見えねぇが? レオノーラさま、穂奈子がどこにいるのか知らねぇか? 弟のオプト・ドラコニスが心配している」


【亜・穂奈子クローネ三号】──イカ巫女、 イタコや神託をするシュビラのように、精神だけの存在や言語体系が大きく異なる生命体と精神を通わせて自らの口を使って、意思を外部に伝える能力がある。


「穂奈子は、この空間座標は精神干渉が酷いから。瞑想部屋にこもって、外部干渉を遮断しているそうよ」

「ふ~ん、イカ巫女も大変だな」

 その時──船橋内に緊急事態を知らせる、警報音が鳴り響いた。

 三次元モニターを確認したディアが叫ぶ。

「跳躍重力波の異状を計測! 極楽号、航行左前方より、何かが跳躍してきます!」

 急いで手動航行に切り替えて、操舵を握るカプト・ドラコニス。


 跳躍で極楽号の左前方に出現する、極楽号の半分以下の大きさの自然衛星。

「ちくしょう! 回避が間に合わねぇ!」

 衝突の衝撃、自然衛星はそのまま極楽号に衝突後に、また跳躍して消えていった。


 レオノーラが、ディアに訊ねる。

「極楽号の破損状況は?」

「激突角度が浅かったので船外装甲は無傷です……現在、極楽号内の被害状況を確認中」

 怒るカプト・ドラコニス。

「当て逃げか! どこのどいつの衛星級宇宙船だ! 航行軌道調整……正常航路確保」


 船橋の壁際に背もたれして立っていた、砂漠の遊牧民の格好をした拳闘士バグの【飛天ナユタ】がカプト・ドラコニス言った。

「極楽号に、ぶつかってきたのは、さ迷う跳躍小天体『カナン』……誰も乗っていませんよ、勝手に跳躍して去っていくだけですから」

「そんな迷惑な小惑星が存在するのかよ! 危ねぇな」

「まぁ、銀牙系内で衝突する確率は、天文学的な数値ですからね……別の意味でついているかも知れませんね」

 カプト・ドラコニスは、ナユタの話しを聞いて「そいつぁ、怒ってもしかたねぇな」と肩をすくめた。


 この時──追突の破損を免れた極楽号には、すでに脅威がはじまっていた、追突時に船壁に付着した白い胞子のようなモノが、密かに極楽号の船内に侵入していた。

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