第18話・織羅レオノーラ
美鬼が、ボルトーが持っているピースサインとパンチが両側にそれぞれ付いた、打撃系武具を指差して訊ねる。
「前々から不思議でしたけれど、次元流の使い手がナゼ、打撃系武器ですの?」
「あぁ、これね」
ボルトーが、腰にぶら下げた各種ハンマーを擦る。
ボルトーは、幼い頃から剣術の『次元流』道場に通って、本来なら免許皆伝級の腕前を持っている。
【次元流】とは、時空を越えて、予想外の位置から相手を攻撃できる剣技だ。
「だって、剣でいきなり背後から、プスッって刺されるのって相手も嫌じゃない……それよりか、後頭部をボコッと鈍器で殴られた方が、相手も納得するんじゃない。刺されるよりは安全だし」
今一つ、攻撃の安全と危険の基準がわからない、炎将ボルトーであった。
次の日、デビュー戦を控えたゴキブリ仮面少女と、炎将ボルトーの二人は行方不明となった。
極楽号内にある喫茶店──遠隔操作のリモート接客ロボットが動き回っている店内。
さまざまな事情があって、店舗で直接接待業務が行えない就労希望者のために開発された、リモート労働ロボット喫茶店。
球体タイヤで移動をして、腕が四本あり、前方は料理を乗せて運べるワゴンのような構造になっている。
円形の複眼が付いたロボットの胸部にはモニター画面があり、遠隔操作でロボットを操作して、勤務している者の顔が映し出されていた。
遠隔操作ロボットには、仕事を教えたり指導をするヒューマンタイプ異星人の主任先輩が一人ついている。
当初はロボットにプログラミングされた接客パターンで、経験が皆無の就労希望者でもリモート接客ができると想定されていたが。
いざ、稼働させてみて。
極楽号では、人との接するコトを大切にして、生身で仕事を教える者も店舗には配置している。
本日の勤務時間が終了して、新人のリモートロボット従業員に。後の指示を済ませた先輩従業員
が言った。
「それじゃあ、後はお願い……あたし、これで上がるから」
ロボットの胸部モニターに映し出される、ウサギ耳種族の女の子が画面越しに言った。
彼女は、画面の向こう側の家では横になって授乳をしている。
「はい、先輩お疲れさまでした」
ヒューマンタイプの『セルキー星人』の従業員女性は、ロッカールームで脱いであったアザラシに似た生物の皮を着込むと、アザラシのように腹這いで「オゥオゥ」鳴きながら家に帰って行くのを眺めながら。
椅子に座ってホットミルクを飲んでいたレオノーラが、向かいの席に座っている
「惑星【ユーフォリア】の悪い噂は、ボクも聞いているよ……で、極楽号の目安箱に、美鬼が実名で依頼してきた真意は?」
【目安箱】とは、衛星級宇宙船の『極楽号』と『ナラカ号』に搭載されている、情報収集システムのコトだ。銀牙系中の助けや救いを求める声が集まってくる。
実際はナラカ号にいて、立体映像だけを送ってきた美鬼が、笑いながら言った。
《きょほほほ……今回は、わたくしが直接、動くわけにはいきませんわ。万が一、わたくしの身になにかがあったら、誰もアリアンロード十五将を抑えられませんわ……きょほほほっ》
そう言って立体映像の美鬼・アリアンロードは、コップの中にギョロ目のハ虫類が浮かぶ飲み物を飲みながら。
《それでは、惑星ユーフォリアの件お願いしますわ……極楽号風に、ご安全にですわ……きょほほほほほほっ》
高笑いを残して美鬼・アリアンロードは、一方的に通信を切って三次元立体映像も消えた。
呟くレオノーラ。
「相変わらず、一方的で自由奔放な人だなぁ」
レオノーラの近くに立つ執事で、遮光土偶型異星人の『アラバキ夜左衛門』が言った。
「レオノーラさまの、お節介も今回ばかりは控えた方が……嫌な予感がします、ヒューマンタイプ女性の失踪が相次いでいますから……噂では、惑星ユーフォリアの者が関係しているとか」
「夜左衛門さんが、ボクの身を案じてくれるのは嬉しいけれど……ボクは惑星ユーフォリアに行くよ」
椅子から立ち上がったレオノーラは、片腕の肩から指まで装着されている。各種機能が内蔵されたガンアーマーの通信器を通して船橋にいる、極楽号の航行総責任者に伝えた。
「カプト・ドラコニスさん、極楽号の進路を惑星【ユーフォリア】へ……跳躍」
極楽号は、惑星ユーフォリアの座標に向かって跳躍航行した。
【跳躍航行】
アルファ座標の空間から、ガンマ座標の長距離空間を銀牙系内で移動する場合、特に衛星級宇宙船やド級の大型宇宙船が、宇宙船がある周囲の空間を亜空間ラッピングをして使用する。
デミウルゴスの古代文明が残した航行技術。
先端がガンマ空間に突入していても末端は、まだアルファ空間に残っている。
物語の時間軸は惑星ユーフォリア時間で、ゴキブリ仮面少女と炎将ボルトーが行方不明になった直前時間にもどる。
三日後にデビュー戦を控えたゴキブリ仮面少女は、自分が試合をするリングを撫でながら悩んでいた──少女には、まだ自信が無かった。
(負けるかも知れない……三日後のデビュー戦で)
悩んでいる少女に声をかけてきた人物がいた。
「強くなりたいか、負けたくないだろう、その願い叶えてやろう」
ゴキブリ少女が、振り返るとそこに、狡猾そうな目をしたオールバックの髪型をした血球人『ド・アッホー』が立っていた。
無言の少女に、アッホーはさらに問いかける。
「知っているぞ、デビュー戦で負けたら、レスラーをやめる約束を両親としているんだってな……オレだったら、おまえをすぐに強くできる」
薄笑いを浮かべながら、片手を覆面少女に向かって差し出すアッホー。
「さあ、オレと一緒に来い。本来の力を引き出して最強のレスラーにしてやる」
震える指先をアッホーに向かって近づける、その時──少女の背後から炎将ボルトーの声が聞こえてきた。
「嫌な予感的中、やっぱりド・アッホーが関係していたね」
声が聞こえてきた方向に少女が目を向けると、そこに炎将ボルトーが立っていた。
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