第9話『どっちがどっちか分からない』


連載戯曲 たぬきつね物語・9『どっちがどっちか分からない』


大橋むつお





時   ある日ある時


所   動物の国の森のなか


人物


  たぬき  外見は十六才くらいの少年  


  きつね  外見は十六才くらいの少女 


  ライオン 中年の高校の先生





ねこまた: ライオン丸くん……


ライオン: ねこまた女史……


ねこまた: にくい男よね(ライオンと同時)


ライオン: にくい女だぜ(ねこまたと同時)



いつしか寄りそい、見つめあう二人。トレンディードラマの最終回のような曲がたかまる(にくい男と女の歌とダンスになってもいい)



二人: なーんてね。



明転のまま、ライオンは去り、ねこまたはセンターに。コンパクトで化粧をととのえながら、ライオンがあらわれる。



ライオン: この森を出たことが、あの子たちにはプラスになったようです。人間も動物も、甘えを捨てて、一人で生きてみることが大切なようです。これも、わたしの医者としての判断が正しかったと……


ねこまた: ちょっと……


ライオン: 今日は、ひさかたぶりに医師会に……そいで慣れない化粧が……のらないわね……


ねこまた: あんた、今ライオン丸なのよ、ちょっと!


ライオン: え……!?


ねこまた: コンパクト見てて、わからないの!


ライオン: やだ、ほんと!? て、ことは、あんたライオン丸?


ねこまた: わたしは、わたしよ、ねこまたの……


ライオン: ねこまたは、あたし……


ねこまた: じゃ、わたし、おれ、ライオン?


ライオン: ……おれ、あたしたち……やばい?


ねこまた: 互いの立場が、ちょっぴりうらやましく……


ライオン: あの子たちの残していった化け葉っぱで、ほんのできごころで化けてみたんです。


ねこまた: 化けてみると、そっちもなかなか大変で……


ライオン: こっちもなかなか大変で、化け直して、化け直して、何度も化け直しているうちに……おれ、いえ、あたし、いえ……


ねこまた: あたし、いえ、おれ……


二人: わからなくなってしまった!


ねこまた: かくなるうえは、ライオン丸を刺して、けだものに(ナイフを出す)


ライオン: ちょっと待った。ライオン丸は、あんたかも(ナイフを出す)


ねこまた: じゃ、自分で自分を……


ライオン: それは痛いから、やっぱり……


ねこまた: あんたを……


ライオン: いや、あんたを……


二人: いくぞ! 待てエ!


ライオン: 待てエ、ねこまたの、ライオン丸のねこまたの……


ねこまた: ライオン丸のねこまたのライオン丸の……


舞台上、二人追っかけあい。たぬきときつねが現れ、四人で歌とダンスになる。



全員: たぬき、きつね、ねこまた、ライオン。たぬき、きつね、ねこまた、ライオン。


どっちがどっちか分からない。分かっているのか、いないのか。分からない、分からない。分からない。


たぬき、きつね、ねこまた、ライオン。たぬき、きつね、ねこまた、ライオン。どうして、なぜだか分からない。


だれのせいなのか、そうじゃないか。分からない、分からない、分からない。






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たぬきつね物語 武者走走九郎or大橋むつお @magaki018

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