たぬきつね物語
武者走走九郎or大橋むつお
第1話『たぬきときつねがやってくる』
連載戯曲 たぬきつね物語・1『たぬきときつねがやってくる』
大橋むつお
時 ある日ある時
所 動物の国の森のなか
人物 たぬき 外見は十六才くらいの少年
きつね 外見は十六才くらいの少女
ライオン 中年の高校の先生
ねこまた 中年の小粋な女医
客席をはさむように、客席奥から、たぬきときつねがやってくる。互いに「へそまがり!」とか「あまのじゃく!」とか「すっとこどっこい!」とか「いしあたま!」とか「わからずや!」とかののしりあいながら舞台へ。
たぬき: いいかげんにしろよ。なんでこんなことがわからないんだ。
きつね: わからないのは、そっちでしょ。
たぬき: そっちだよ。
きつね: そっちよ。
たぬき: いや、そっちだ!
きつね: いいえ、そっち!
たぬき: そっちだ!
きつね: そっちよ!
たぬき: ふん!(そっぽを向く)
きつね: ふん!(同時にそっぽを向く)
間
きつね: 言い方を……
たぬき: かえてみよう。互いに非難するだけじゃ……
きつね: フェアじゃないものね。
たぬき: 相手への非難じゃなく、自分について。
きつね: そう、わたしは……
たぬき: おれが……
二人: 正しい。
たぬき: 正しいのはこっちだ!
きつね: こっちよ!
たぬき: こっちだ!
きつね: こっち!
たぬき: こっち!
突然ライオンの吠える声。びっくりする二人。上手から、ライオン先生があらわれる。
ライオン: どっちもどっちだ!
二人: ラ、ラ、ラ、ラ、ララ……
ライオン: 「ら」ぬき言葉のうめあわせか? そういうのを、言葉の「ら」列っていうんだ。
たぬき: ラ、ラッキョウ先生。
ライオン: ズコ……
きつね: ちがうでしょ。ねえ、ラーメン先生(^▽^)/
ライオン: ガク……おまえら、先生の名前も満足におぼえられんのか?
たぬき: あ、アトム先生!
キツネ: そうだ、アトム先生だ!
ライオン: なんでアトム先生になるんだ! 頭文字は「ラ」だろうが「ラ」。ラッキョウの「ラ」とか「ラーメン」の「ラ」とか、そういうどこにでもある「ラ」ではなく、王者の風格を持った「ラ」。「ラ」の中の「ラ」。王様の「ラ」「ラ」「ラ」……
二人: (歌う) ラララ、空をこえて、ラララ星のかなた。行くぞ、アトム、ジェットのカギィり……
きつね: ね。
たぬき: でしょ。
きつね: ラララときたら「鉄腕アトム」
たぬき: これしかないでしょ。
三人: バンザーイ、バンザーイ、バンザーイ
きつね: と、いうことで。
たぬき: 失礼しま……
ライオン: 待った! そういう関西系のノリで、はぐらかされるほどボケちゃいないぜ、このライオン先生は。
きつね: あの……
たぬき: その……
ライオン: それに、鉄腕アトムってなんだよ? 五十歳以上のロートルでなきゃ分かんないだろーが!
二人: 鉄腕アトムは永遠に不滅です!
ライオン: 長嶋か!
たぬき: フルベース、ツーストライク、ツーボール、ピッチャー投げました!
きつね: 長嶋、渾身のフルスィング! カキーーーン!
たぬき: 当たった!
きつね:大きい!
ふたり、袖に走り込む。
ライオン: ホームラン! じゃないから、もどってこーーい。 また、けんかしていたな?
たぬき: はい……
きつね: いえ……
ライオン: おまえたちは、寄るとさわるとケンカだ。いつも言っとるが、たぬきもきつねも、うちの生徒全体がそうだが、わがまますぎる。自分の都合でしかものを考えん。人がちょっと自分と違うことを言ったりすると、すぐに、ウザイ、ダサイ、キショイ、ムカツク、キレルだ。それもたいていは、つまらん、どうでもいいことが原因だ。きつねうどんと、たぬきそばがどっちがうまいとか。化ける時に頭にのっける葉っぱのサイズは、MがいいとかLがいいとか。今度は、いったい何が原因なんだ?
きつね: それが、むかつくんです!
たぬき: マジ、こっちがキレてしまうんですよ!
ライオン: だから、その理由は!?
きつね: 理由は……
たぬき: えと……
きつね: えと……
きつね: なんだっけ?
たぬき: なんだったけ?
ライオン: おまえたち、理由とか、原因とかもわからずにけんかしてたのか?
たぬき: いえ……
きつね: その……忘れちゃったんです。
たぬき: はい……
ライオン: 忘れるような、ささいなことで、ケンカなんかするな!
二人: は、はい。
ライオン: いいか、いつも言ってることだが、お互い、相手の身になって、考え、行動しなさい、相手の身になって。そうすれば、ちっとやそっとのことで、けんかすることも無くなる。
二人: はい……
ライオン: いいか、今度ばかりは、口先だけの返事じゃだめだぞ。見ろこれを(紙袋から、たらこのような口びるをとり出す)
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