すべての恋が終わるとき
もりぴよ
秘密
安っぽいホテルの天井を見上げながらふと考える。
今日でこの天井ともお別れか。いつかこうなるだろうと思っていたれど、案外早かったな。
「‥どうしたの?」
彼が見下ろして、はっとなる。
「ごめん、気にしないで」
少し悲しい顔で笑ったあなたをぎゅっと抱きしめる。
だめ、集中しなきゃ。でも、お別れの前のセックスなんて、ただお互いを痛め付ける行為にしか思えないんだけどな。あーあ、終わりが見えるセックスってなんて悲しくなるんだろう。もうどれだけ願ってもあなたには会えない。これで、最後。
「タバコ吸って良い?」
「いいよ、私も吸う。」
事を終えて、二人でタバコを吸う。こうやって二人でタバコ吸うの好きだったな。たわいもない話をして、ご飯を食べて、それだけの時間だったけど。たったこれだけの事に私は何度救われてきただろう。影で何度泣こうが、この時間の為に私はあなたの前ではずっと笑ってきた。
「じゃあ‥俺いくね。」
放たれた一言。あ、痛い。胸が痛いってこういう事なんだなあ。顔色一つ変えず、私の目をまっすぐ見るあなたの気持ちは読み取れない。足がじんじん冷えて、凍ったみたいに私は動けなくなった。
「‥うん」
喉から振り絞った声は、かすれて弱々しかった。
届いたか届かないかくらいで、あなたは背を向けた。
待って。私あなたの事が本当にすきだった。好きで好きでどうしようもなくて、でも誰にも相談出来なくて。どうして眠る前いつも隣にいなんいんだろう、どうしてあなたが笑いかけるのは私だけじゃないんだろう、どうして私は選ばれないんだろう。
いくつものどうしてが浮かんだけれど、私は飲み込んだ。分かっていたから飲み込んだ。
そんな呪いみたいな言葉をひとしきり心の中で吐き出しているうちに、ドアの閉まる音がした。
静まり返った部屋に私は一人残された。
結局最後の最後まで本当の気持ちは言えなかった。嫌われたくなくて、嘘ばかり貼り付けていたら、私は私じゃなくなっていた。そうだ、あなたといるときの私は私を好きになれなかった。自分の事も好きになれないのに、どうして愛されると信じていたんだろう。
「はあ」
大きなため息と共に、ぼすんとベッドに倒れこむ。まだほんの温もりのあるそれは、私の心を痛いくらいに締めつけた。涙が、溢れる。
きっと明日から私は一人で泣く日が増えるのだろう。
あなたが私の名前を呼ぶ声や、笑顔や、温もりが恋しくて。きっと死にたくなるんだ。死にたくなって死にたくなって朝が来て、何にもないようなフリをして笑って生きていくんだろう。
私はベッドから手を伸ばしてティッシュを引きずり込み、しばらくは続くであろう地獄のルーティーンに肩を落としながら、明けない夜に溶けていった。
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