第44話 次の試合に向けて

 試合は終わった。両軍の選手はお互いの健闘を称え合い、スタンドで応援する観客に感謝を示してから速やかにグラウンドを後にする。


 敗れた朱護学園の帰りのバスの中は静かではあったが、その目はまだ死んでいない。

 なぜなら、まだ春の甲子園へと続く関東大会への道は続いているからだ。






「……まず、今日の試合は残念だった。どちらが勝ってもおかしくない、拮抗した勝負でだったが……僅かな差が、勝敗の差になってしまった」


 学校に戻り行われた部室でのミーティングは、音羽監督による試合の総括から始まった。


「相手は名門、横浜蒙光。雨でグラウンドコンディションも悪い中、投げて、打って、守って、みんなベストを尽くしてくれた。……が、負けては何も意味がない」


 監督の言葉に、朱護学園ナイン全員が揃って頷く。今日の試合は各々がベストに近いパフォーマンスを発揮しながら、結果的には負けた……つまり、純粋な力負けなのである。


「俺達の次の試合……3位決定戦までに残された時間は少ない。しかし、この3位決定戦で負けては春の甲子園への道が完全に絶たれてしまう。……お前達、もう負けたくはないだろう?」


「「「はい!!!」」」


「だったら残された時間、死ぬ気で各々のレベルアップに臨め! 今のチームに明確な欠点は存在しない!チーム全体の力をあと10%高めるだけで、ウチは全国優勝出来るチームになると確信している! 難しいこと、新しいことはやらなくてもいい! 自分の今出来ることの精度を極限まで高めろ!」


「「「はい!!!」」」


「……フゥーッ……久々に叫んだら血圧が上がった。沢登、後は任せる」


 監督がバットを杖代わりにしながら後ろに退いていくと、それに代わって結が選手達の前に立って次の対戦相手の情報を話しはじめた。


「……みんなも知っての通り、3位決定戦の相手は神奈川四天王が一角、閃光館せんこうかん高校です。持ち味はなんと言っても、1番から9番まで全員が足を使えるという超機動力野球。その中でも特に警戒すべきが、閃光館のスーパーカートリオ……忍足おしたりトラヴィス、小木おぎ俊一郎しゅんいちろう東郷とうごう平次へいじの1、2、3番ね」


「出たな足バカトリオ。ピッチャーとしてはウザいことこの上ないぜ」


「ナイジェリアとのハーフのセンター忍足と、165cmの小木、190cmの東郷の凸凹でこぼこ二遊間……攻撃だけじゃなく、センターラインの守備でも脅威になる3人だな」


 閃光館スーパーカートリオに対し、鈴本と船曳はそう感想を漏らす。


「秋季大会における閃光館の得点の実に7割は、この3人によってマークされているわ。でもって3人トータルの出塁率は5割に迫り、盗塁数はなんと……20」


「3人で20ってことは1人あたり6~7回!? 俺でもまだこの大会で4回しか盗塁してないのに!?」


 チーム1の俊足である小久保が思わずそう叫ぶほどに、閃光館スーパーカートリオの機動力は抜きん出ていた。

 イメージとして知っていても実際に数字を出されるとインパクトは大きいらしく、鈴本や清水といったバッテリー組も大なれ小なれ体に力が入る。


「でも、逆に言えばこの3人を封じ込めれば閃光館打線は機能停止するということ。実際、準決勝で閃光館と戦った東皇とうおうは3人を僅か1安打に抑えて完封勝利をしたからね」


 夏の甲子園準優勝チームである東皇の城之内、福王バッテリーも、閃光館の核はスーパーカートリオであると見切っていた。

 捕手の福王は徹底した研究で3人の弱点を見抜き、投手の城之内は福王の要求通りのボールを投げ込むことで3人を完璧に抑え込んだのだ。


「そんな東皇にならって、私達もスーパーカートリオ封じ作戦を計画したいと思います。試合までの間に、バッテリーは3人の弱点を脳味噌に叩き込みつつ、クイックモーションの練習を。内野手も、塁上のランナーをありとあらゆる手段で殺すための片棒を担いでもらうわよ!」


「マネージャー! 質問です! 外野は何をすればいいんですか!?」


「アンタらはとにかく打って打って打ちまくれ! 外野はそういうポジションでしょ!?」


「確かに! 了解であります!」


「さあみんな! 何度も言うけど3位決定戦までもう時間はないわ! 今日は全員で夜まで残って練習するわよ!」


「「「おうっ!!!」」」

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