第25話 宇宙人を殺せ

 2番沖田は堅実に右方向にゴロを打ち、二死ツーアウトながらランナー三塁。ここで迎えるバッターは、3番ライトの柳生である。


「さあ兄弟! 第2ラウンドを始めようじゃないか!」


「やかましい。テメェと兄弟になるくらいなら上野のパンダと一緒に育つわ」


 口では強気の姿勢を崩さない万谷だが、内心はどうしても柳生への苦手意識を崩せていない。今日の第1打席で完璧なボールを簡単に外野まで運ばれたことから、その苦手意識はまた強まっていた。


(……そのツラを今すぐやめろ。テメェのニヤけヅラは放送禁止レベルのグロ画像なんだからよ……)


 打席で笑みを浮かべながら悠々と構える柳生に対し、人殺しのような目つきを向ける万谷。その表情の違いは、互いの持つ余裕の違いだろうか。


(……リトルリーグ時代。俺が人生ではじめて打たれたホームランを打ったのがコイツだった……それ以来、ずっと消えない苦手意識……どこに投げても、打たれるような恐怖……それをコイツに感じるのが、腹立たしくて仕方ない!)


 敵を強く睨み付けることで万谷は打者への恐怖心を払拭し、相手を常に見下ろして投球する。が、柳生は更にその上から万谷を見下ろしてくる男なのだ。


「でらぁっ!!!」


(また……打たれた……けど……)


 柳生の放った火の出るような勢いの打球は、どこにも抜けることなく万谷のグローブの中に収まっていた。

 ピッチャーライナー。これでスリーアウトチェンジである。


(……打たれてもなぁ、結果的に抑えりゃ俺達の勝ちだ。テメェに負けてもチームが勝てば、それで充分なんだよ!)






 スコアが2-1で変わらないまま、試合は4回の裏を迎える。

 朱護学園エースの鈴本は2回、3回と三者凡退に抑えて流れに乗っていたのだが、この回の先頭打者として打席に立つのは……


『3番、センター、柳田クン』


「いざゆーけー、むてきーのー、わかたかぐんーだんー♪︎」


「……アンタ、なんだかんだ言ってホークスファンでしょ」


 再び歌を口ずさみながら打席に立つ柳田を見て、清水は昔からなんとなく思っていたことを口にした。


「……20年くらい昔な、今の柳田とは別の柳田がホークスにはおったらしいねん」


「……へぇー、それで?」


「人が何かを好きになる理由なんて、大した理由じゃあらへんやつばっかってことや」


「……あっ、つまりファンってことね……」


 宇宙人相手に意味のよく分からない会話を交わした後、清水は気を取り直して鈴本とともに対柳田用の配球を考える。


(……とりあえず、この人を打ち取るにはなんとか打ち損じを狙うしかない! まずはボールになる球から慎重に入って……)


 低く外れるボール。しかしそのボールに、柳田は無理矢理手を出して思い切り引っ張った。


「んなっ……!?」


「……悪いな後輩よ! 今日の俺は乗りに乗ってまんねん!」


 鋭い打球はファースト門倉の真正面。門倉は腰を落として捕球体勢に入るが……


「なんとアンラッキー」


 打球は門倉の手前でイレギュラー。急に高く跳ねたボールは彼の頭の上を越え、打球はライト線を転々とする。


「絶好調! このままセカンド行くぜぇ!」


「この宇宙人の好きにさせるな! 柳生! なんとしても刺せ!」


「任せんしゃい! 究極の5ツールプレイヤーである俺には、強肩も備わっている!」


 ライト柳生から二塁の守へのストライク送球。しかし、それよりも早く韋駄天柳田の足は二塁ベースへと到達していた。


「HU~~~!!!」


「流石にヤベェな」


「この宇宙人が……!」


 好き勝手に暴れまわる柳田にバッテリーは揃ってドン引きするが、それは他の朱護学園ナインも例外ではない。なんとかしてこの宇宙人を抑えなければ……その一心で、各々が自分なりの対処法を必死に考える。


「ヘイヘイヘーイ。二塁で止まると思うなよ~? 次は三盗しちゃうで~?」


 そんな中、ベースの上でチョロチョロと鬱陶しく動く柳田を無視し、ショートの守はタイムを要求せずに1度マウンドへと駆け寄るのだった。


「……どうした守備大将。直接ボール渡してくれんのかい?」


「……いや、ちょっと狙ってみようと思ってさ」


「……何を?」


「柳田暗殺計画」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る