第13話 滑り込み
(二死満塁……点差は3-1。鈴本を楽に投げさせるためにも、そして……俺自身のアピールのためにも、ここでは貪欲に打点を狙いにいく!)
左打席からマウンドに向けて、これでもかというほど力強い目線を送る守。これだけの覚悟のこもった視線は、結にすらぶつけたことはないであろう。
そんな守が正面から向けてくる熱視線に、中谷は上から見下ろした視線をぶつけるのであった。
(……もうコイツは、ただの安パイと考えるわけにはいかねぇな。今日最後の1人、確実に抑える!)
初球のインコースへのストレートはファール。
2球目の緩いカーブは外に外れ、3球目はアウトローにビシバシのストレート。
(……もう疲れてるだろうに、まだあのコースにビシッと決められるのかよ……)
(これで追い込んだ。後1球だ)
追い込まれたことで、守は元々短く持っていたバットを更に
(……当てさせねぇよ。このストレートで……
真ん中低めへの146kmストレート。その力強いボールに、守は振り遅れながらも必死に食らいつき……
「だあぁ!!!」
腕と腰の筋肉を余すことなく使い、バットを振り切った。
「……バウンド高い!」
叩きつけられた打球は高く跳ね上がり、ピッチャー、サード、ショートの中間地点へ向かって落ちてくる。
(このバウンドの高さ……一瞬でも躊躇すれば、内野安打は避けられない! 躊躇や衝突を生まないためにも、声による連携は不可欠! 誰がボールを取るかの指示を、冷静かつ確実に……)
「……ショート!!! 任せる!!!」
「おうよ!!!」
かけ声とともに中谷はその場で
これによって広く余裕の出来たスペースに、ショートが全力で突っ込んで落ちてくるボールを捕球する。
「ファースト! 投げろォ!!!」
「うおおぉっ!!!」
前進する勢いを止めぬままにランニングスローで一塁へと送球するショート。
並よりは速い足を必死に動かし、頭から一塁に滑り込む守。
ギリギリのタイミングでのクロスプレー。プロ野球ならば絶対にリクエストが要求されるきわどいプレーにも、審判はすぐに結論を出さなければならない。
「……セーフ! セーーフ!!!」
この瞬間、守の高校野球初打点がスコアブックに記録された。
それに加え、ギリギリのクロスプレーを見事制した快感もあってか……守は一塁ベースを踏みつけながらガラにもなく吠えたのであった。
「…………よっしゃあぁ!!!」
「……やったぁ! いいぞ、守ーー!!!」
キレイではない。練習試合であることと試合の展開を考えれば、劇的というわけでもない。それでも、守のプレーを見ていた結の目は潤んでいた。
つい最近まで自分に打撃の才能がないと決めつけ、打つことを諦めていた守が……たとえ打てなくとも、こうして自分の出来ることを全力で、感情を剥き出しにしてプレーしていることが。
「……守なら……絶対にレギュラーになれる! 私を、みんなを! 甲子園に連れていってくれる!」
結の目には、確かに見えていた。満員の甲子園球場で、守が躍動している姿が。
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