幻想は雪とともに。

ヤグーツク・ゴセ

幻想は雪ともに。 

あぁ。こりゃ、雪だな。夜の底が白くなった。あの冬を思い出す。雪が風で舞う。輝きを放つことはなくただただ散る。そして雪が落ちる。そして溶ける。



目覚ましを止めた。だるいほど寒い朝だ。外はもう白い世界だ。通学路を滑らないように気をつけながらもかけてゆく。僕より先に幼馴染のユキはヘッドホンを首にかけて校門をぶっきらぼうに入っていった。

下駄箱で「おはよう」と機嫌よく振る舞ったがユキは相変わらず無愛想に頷くだけだった。


4の数字に短針が止まった。だるいくらい外は寒い。学校からの帰り道。いつもはユキと一緒に帰っているが今日はユキは本屋へ寄って行くそうだ。僕は寒くて早く家に帰りたかったので1人寂しく帰った。




夜。僕の家の固定電話が鳴り響いた。なぜか僕は胸騒ぎがした。外は吹雪になっている。強い風の音もする。ユキのお母さんからだ。

泣いている。電話越しでもわかる。僕の胸の鼓動の音が異様に大きく聞こえる。堪えるように話し始めた。



 「ユキが、ユキが、、。亡くなったのよ。交通事故で。」



僕は泣くこともできなかった。もうその頃には外へ飛び出していた。涙は出てこない。涙が凍ったように出てこない。行くべき場所も分からず。道端で座り込んだ。視線全てが白い。地面の雪と降っている雪で白の世界だ。気がつくともうすぐ夜明けだ。とぼとぼと歩いて帰る。なぁ。ユキ、生きてるんだろ?出てこいよ。


夜明けが始まる。朝日が昇る。日の光が雪を照らす。降っている雪に光が反射してダイヤモンドのように輝いて見える。あぁ、綺麗だ。こんな状況でも綺麗なものは綺麗だ。



日の光の方に誰かいる。輝く世界の方に誰か。ユキなのか。僕は足を思い切り踏み切り駆け寄る。途中滑りそうになりながらも無心で走る。僕の心は加速する。女性だ、、。ユキだ。そう思った。もうそこにいる。彼女は振り返る。その時。


風が勢いよく吹き雪が舞う。言葉を失うほどの美しさを見た。彼女の顔は見えない。だが、ユキだと思う。思いたい。雪で顔が見えない。風がまた吹き出す。僕はその風の中を走る。間違いなくユキだ。笑いかけてるユキが見えた。ユキがそこに。もうすぐそこに。次に雪が舞った頃にはもうユキは消えていた。溶けるように消えていた。

「なんだよ。ユキ。そこにいるんだろ。隠れて俺を見てるんだろ。出てこいよ。お願いだからさ。ユキ。」

音がない世界に1人。僕は残された。悲しみを含んだ雪だけが僕の周りに積もった。




ユキの母からの電話が来た時にはもうユキはこの世にいなかった。じゃあ、僕が見たユキは一体...。




雪が風に舞う。雪は散る。そして溶ける。今年の冬も雪が積もった。今年の雪も悲しみを含んでいる。彼女の死はダイヤモンドの輝きの記憶のように切なくも儚い。



僕だけの物語。いや、彼女と僕だけの物語。




        雪が織りなす幻想の物語。




君はもういないから。僕は1人雪道を歩く。

       

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幻想は雪とともに。 ヤグーツク・ゴセ @yagu3114

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