翼が欲しかったあの時の私へ

いずみつきか

第1話

ちょっと人より足が速かっただけの、中学生の私は、短距離走者を目指していて。


ちょっと人より本を読んでいただけの、女子高生の私は、小説家になりたくて。


ちょっと人より絵が描けただけの、女子大生の私は、イラストレーターに憧れて。


自分の未来が明るくて、叶わないことなんかないと信じ切っていて、


それでも、自分の本当の願いがなんだったのか、ちっとも分かっていなくて、


自分のことも、周りのことも分からないまま、いつの間にか大人になって、


通勤電車に毎朝揺られながら、友達のSNSを眺める経理のOLになっていた。




結局、私は、


中学生の時も、女子高生の時も、女子大生の時も、


大人になっても、


大きな大きな声で、誰かに何かを伝えたくて。


いつの間にか、伝えたかった言葉が分からなくなっても、


どこにも届かない声を抱えたまま、その日その日を無難に過ごしていた。




何も分からないまま、いつの間にか、人並みの、


用意されたスタンプラリーのような、標準的な幸せもつかめなかった私は、


そのことに気付いてしまった私が、今、


自分の中の、声にしたかった言葉を思い出してしまったことは、


果たして不幸なことだろうか?


今更思い出した、私の、本当の言葉は、


ようやくつかんだ、私の、本当の望みに、


近づけてくれるだろうか?




あの日、自分の行きたい空さえ分かっていなかった私は、


時間がかかってしまったけれど、ようやくそれが分かった、のだと思う。


やっとここから、羽ばたける、と信じたい。


今も、そしてあの時も、


私が欲しかったのはきっと、


翼じゃなく、本当に行きたかった空への地図だった。


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翼が欲しかったあの時の私へ いずみつきか @asai_tsukika

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