第4話(2)紅白戦前メンバー自己紹介
十分後、グラウンドに集合した私たちは円になっていました。緑川さんが切り出します。
「改めてですが、皆さんに自己紹介をしてもらいましょうか。名前とクラス、ポジション、利き足と得意なプレー……あとはそうですね……それぞれなにか一言お願いします。趣味とかマイブームとか何でも良いですので。あ、各々紹介が終わったら拍手してあげて下さいね」
チームの現状を把握しようという狙いでしょうか。
「では私から時計回りでいきましょう。……えー私はキャプテンの緑川美智、クラスは3‐Dです。ポジションはDF、左利きなので左のサイドバックをやっています。中学のときは中盤でもプレーしていました。攻め上がってのクロスが得意ですかね。後一言……私の家は近所の商店街で『グリーンリバースポーツ』というスポーツ用品店をやっています、和泉高校サッカー部と言って下されば、値引きサービス致しますので、是非お越し下さい」
「副キャプテンの永江奈和、3‐C。GKだ。利き足は右。身長はある方なので、ハイボール(高いボール)の処理にはわりと自信がある。マイブームは……甘いものが好きなので、最近はタピオカかな」
「池田弥凪―クラスは3‐A。右利きだから主に右サイドバックやってるよー。中学の時とかは、中盤とか前線の方もやってたよー。クロス上げるより、縦に抜けるのが好きかなー。ちょこちょこオーバーラップするから、逆サイドや中央の人は上手く使ってねー。ゲームが好きなんだけどー特に『平野暴動』ってのが最近お気に入りー。良かったら一緒にプレーしよー」
昨日会ったときはニット帽を被っていましたが、今日は大き目のヘアバンドをつけ、髪の毛を逆立てています。これが練習や試合の時などの彼女のスタイルなのでしょう。眠そうな一重まぶたは相変わらずですが。
「武秋魚、3‐Bや。ポジションはFW。センターフォワードだけじゃなく、ウィングやシャドーなど前線のポジならどこでもこなせるけど、得意なんは相手DFラインの裏への抜け出しかなぁ~利き足は右だけど左でも蹴れるで。あ、結構タッパあるからってこのアフロ目掛けてボール強く蹴り込まんといてな、この中に小鳥を三羽飼ってんねん、当たったら大変やからな……って親鳥はどこに巣を作っとんね~ん! ……なんで誰も笑わへんの……?」
お寿司屋さんの店内のみならず、これがこの部における彼女への正しい対処方のようです。ホッとしました。
「この後やりづらいなぁ~私は
「
アンカーはDFラインと中盤の間に位置するポジションです。簡単に言うと、危機を未然に防ぐ係です。マッシュルームカットが特徴的な彼女がチームの最長身選手です。
「
トップ下はその名の通り、トップの下に位置するポジションです。シャドーやセカンドトップなどではなく、この人がこだわっているのはあくまでパスを出して得点させる、クラシカルなトップ下のようです。プレー中、走るよりもよく髪をかきあげている少々ナルシストなところが気になりますが、そのボール捌きは実に巧みです。ちなみにファンクラブ云々と言っていましたが、チームでも随一の端正なルックスの持ち主で、校外にもファンがいるとの噂が……。
「1‐A、
彼女はお母さんが中国人とのこと、さほど大柄ではありませんが、それを補ってあまりある身体能力があります。中学時代に何度か対戦したことがありますが、右サイドからカットインして(中央に切り込んで)のシュートが得意パターンでした。強豪校に行ったのかと思っていましたが、「家が近いからここにした」そうです。両肩にかかるくらいの短いおさげと意志の強そうな切れ長の目が印象的です。
「え、えっと、自分は
陸上で市の記録を持っているようですが、あるサッカーの試合を見て感激したようで、それをきっかけに陸上からサッカーに転向したそうです。確かにボール扱いにまだ稚拙なところも見られますが、そのスピードは大きな武器となるはずです。右目を隠すような前髪と後ろで短く結んだ髪型をしています。
「姫藤聖良、1‐Dです。利き足は右で、ポジションは……MFかFWですかね。シャドーやセカンドトップで使われることが多かったです。ただ、サイドのプレーも嫌いじゃありません。基本的にドリブルでいけるとこまでいくっていうプレースタイルです。趣味は……特にないです。強いて言えば映画鑑賞ですかね」
聖良ちゃんのドリブルは、高校レベルの強豪チーム相手でも十分通用するはずです。サイドでもそのプレーは活きると思いますが、中央、つまりより相手ゴール前に近い場所で仕事をさせてあげたいところです。
「あーアタシは龍波竜乃、1‐Cだ。左利き。ポジションは……よく分かんねえからFW?ってのでいいや。とにかくシュートが撃ちてぇ。趣味か……小物集めかな。まあ、ヨロシク」
小物集めってなんだか別の意味で聞こえてきてしまいますが……細かいポジションについては追々教えていこうかなと思います。まあ、彼女自身はその桁外れのシュート力をみても、またメンタル的にも生粋のFW、いわゆるストライカーが適正でしょう。私の番が来ました。
「あ、丸井桃です。1年C組。ポジションはMF、ボランチです。得意なプレーは…ボールを取ってからの展開ですかね……趣味は食べ歩きかな? よろしくお願いします」
「『○○の○○』の異名をとった彼女が入ってくれるとは……これはひょっとするとひょっとするかもしれませんね……」
「ん?何か言ったか?」
「いえ、何も」
緑川さんと永江さんが何やら話しをしていたようですが、拍手の音で聞こえませんでした。
「えっと……マネージャーの小嶋美花です! クラスは2‐Cです。サッカーのプレー映像を集めるのが趣味なので、参考にしたいプレーなどがあれば、言ってくれればすぐに用意出来ます! 精一杯サポートさせてもらいますのでジャンジャンこき使って下さい!」
こき使うつもりはありませんが、他校の情報にも大分精通しているようです。その豊富なデータは参考になると思います。そして、緑川さんがポンっと強めに両手を打って一言、
「はい、それではそれぞれの人となりが分かったところで、午後は予定を変更して紅白戦、6VS6のミニゲームをしましょうか。一緒のチームでボールを蹴ることによってよりお互いの理解が深まるはずです」
全体のコートの広さの半分の、さらにその3分の2位の広さで、ミニゲームが行われることとなりました。チーム分けは2・3年の連合チームと私たち1年生5人にキーパー経験のある脇中さんが加わったチームとなりました。連合チームは赤のビブスをつけ、私たちは白のビブスを付けました。ゴールはミニゲーム用の小さいゴールを両サイドに置きました。時間は変則ですが、15分×4本の計60分。休憩は5分ずつです。全員が所定の位置に散らばり、審判役の美花さんの笛でゲームが始まりました。ここで話は冒頭に戻ります。
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