第4話(3)紅白戦1・2本目
『○○年度第1回紅白戦』 日付:4月○日(土) 天候:晴れ 記録:小嶋美花
基本フォーメーション
二・三年
__________ __________
| | |
| 緑川 松内 | 白雲 |
|永江 武 | 龍波 姫藤 丸井 脇中 |
| 池田 桜庭 | 趙 |
|_________|__________|
一年
【1本目総括】
二・三年チーム(以下紅組)緑川、龍波の近くに密着。ほぼマンマークに近い形。一年チーム(以下白組)、体格差のミスマッチを突き、高いボールを龍波に送り込む。が、緑川が上手く体を当てるなどして、龍波のバランスを崩し、トラップミスを誘う。龍波はほとんど前さえ向けず。姫藤の突破に対しては、池田が良く対応。スピード勝負はほぼ互角。白組は趙がフォローを試みるも、紅組桜庭が目を光らせ、チャンスには繋げられず。一方紅組の攻撃は、松内が白雲を翻弄するも、俊足の相手を完璧には振り切れない。武へのパスを何度か狙うものの、気の利いたポジショニングを見せる丸井によって再三カットされる。下がってきてボールを受けた武が強引にシュートするなど、散発的な攻撃に終わる。
<紅組ベンチ>
「怪我明けで体格差ある相手は流石にきつくないか?」
永江が座っていた緑川に声を掛ける。
「まあ、正直きついですね……ただまだ何とかなるレベルですよ。今日は彼女にシュートを撃たせないつもりです。」
「それは頼もしいな」
「弥凪、姫藤さんはどうです?」
「上手いねーボールの置き所が絶妙だから獲るのはなかなか難しいかなー」
「美来、趙さんも良い動きをしているから大変でしょうけど……」
「OK、OK、姫藤も注意しろってことね」
桜庭は苦笑しながら答えた。
「攻撃面ですが……」
緑川が武と松内に話しかける
「あのお団子ちゃん、流石にやるね」
「何とか上手く出し抜いてやるで」
「お願いします。点を取らねば勝てないですからね」
<白組ベンチ>
「ビィちゃん、どうすりゃ良いんだ⁉ 前すら満足に向けなかったぜ……」
緑川さんがここまでの実力者だとは、私も思いませんでした。さすがはキャプテンと言ったところでしょうか。
「こうなったら、ゴール前でボールが来るのを待っていた方が良いか?」
「だからそれだとオフサイドって反則を取られるって、さっきも言ったでしょ!」
聖良ちゃんが鋭くツッコミます。オフサイドというルールの説明は正直難しいですが、要は「(相手ゴール前で)待ち伏せ禁止」というものです。そこから教えないといけないのは厳しいものがありますが、やはりこちらが勝つためには竜乃ちゃんの規格外のプレーが鍵を握ります。私は彼女を落ち着かせながら、簡単にアドバイスを送ります。
「竜乃ちゃん、まずはボールをキープすることだけ考えて、出来るだけゴロのボールを送るから、足裏とかインサイドを使って、確実にトラップして」
「でもよ、あのキャプテン、ウマいことアタシの前に出てきたりして、ボールをかっさらっちまうんだぜ……」
「前に出させなければ良いんだよ。腰をしっかりと落として、両手を広げて、後ろの相手を抑え込むイメージで。もちろん実際に引っ張ったりしたらダメだけど。あとはただ立ってるだけじゃなくて、自分からボールを貰いにいったりしてみようか」
「わ、わかった、やってみるぜ。で、キープしたらどうすりゃ良いんだ?」
「すぐ聖良ちゃんか莉沙ちゃんに預けて。そうすれば少なくとも前を向くチャンスは増えるはずだから。とにかく2本目はまずボールキープを目標にしよう。……二人とも悪いけど、出来るだけ竜乃ちゃんの近くでプレーすることを心掛けて」
「私たちより竜乃の個人練習みたいね……まあ分かったわ」
「了解した」
「桃ちゃん、自分は……」
流ちゃんが遠慮がちに話し掛けてきました。
「松内さんは上手いから簡単にいくとすぐかわされちゃうよね、次はもうちょっと慎重にいってみようか」
「わ、分かったっス!」
彼女のスピードは魅力的ですが、ミニゲームの場合スペースが狭いため、その脚力を十分に発揮できません。何とか上手く活かしてあげられれば良いのですが……。そう考えていると笛が鳴りました。2本目の開始です。
【2本目】
2分…白組、丸井から鋭いグラウンダーのパス。龍波、トラップに成功するも、パスコースを探す内に緑川にカットされる。
「だぁー!」
「キープしてからじゃ遅いのよ! ボールを受ける前に首を振って周囲の状況を確認するの!」
「くそ、次だ次!」
6分…紅組、松内がキープ。白雲も粘り強く対応。自陣に戻ってきた趙が挟みうちを狙うもそれを察知していた松内、即座に横パス。上がってきた桜庭が持ち込んでシュートを打つもキーパー脇中の正面。
8分…白組、丸井から趙へのスローイン(サイドラインからボールを投げいれること)。趙はそれをダイレクトで龍波に。龍波再びキープに成功。すぐさま、近くの姫藤に預ける。姫藤、池田をかわしにかかると見せかけ、横パス。回り込んできた趙がシュートを放つも、利き足とは逆の右であったためか、シュートは精度を欠いて、ゴール右に外れる。
11分…紅組、池田が武に向かってロングパス。丸井がヘディングでクリア。そのボールを趙がトラップミス、こぼれ球を桜庭がダイレクトで松内へ。松内もキープすると見せかけて、ダイレクトで前線の武へ。虚を突かれた丸井動けず、裏を取られる。
「しまっ…」
「モロた!って⁉」
秋魚さんに完全に裏をとられてしまいましたが、流ちゃんが凄いスピードで戻りボールをカット。前に大きく蹴り出します。
「流ちゃん、ナイスカバー!」
「はいっス!」
スピードは本当に凄いです。違う局面で活かしてあげられれば良いのですが……。
14分…白組、丸井から龍波へ。龍波、再びキープに成功する。近くの姫藤に出すと見せかけて、趙にパス。趙、シュートを打つと見せかけて、逆サイドに浮き球のパス。姫藤、これをダイレクトボレーで狙うも、シュートはブロックに入った池田の体に当たり、勢いを失って、永江にキャッチされる。
「2本目終了です!」
小嶋が皆に告げる。スコアはいまだ0対0。
<白組ベンチ>
「ビィちゃん! どうだった?」
「う、うん。良かったと思うよ。」
正直驚きました。15分間の内、1、2回トラップが出来れば上々だと思っていたのですが、それだけに留まらず、味方へのパスも何回か通しました。体格差で優位に立っているとはいえ、経験ある相手を背負うという難しい状態で、“ポストプレー”をこなしたのです。ポストプレーとは攻撃の起点となることです。高い位置、つまり相手ゴールに近い位置でボールを収めてもらうと、味方も攻め上がることが出来て、攻撃の幅が広がります。その生まれた幅を生かそうと思いました。
「聖良ちゃん、莉沙ちゃん、3本目はワンツーを使った崩しを意識してみて」
「了解」
「……ボクシングのことじゃないわよ、竜乃」
「ぬ……」
ファイティングポーズを取ろうとする竜乃ちゃんに素早く突っ込む聖良ちゃん。
「竜乃ちゃん、ワンツーパスは壁パスとも言うんだけど……。例えば、自分の斜め後ろの位置にいる聖良ちゃんからパスが来るよね、聖良ちゃんはそのまま真っ直ぐ走る、つまり竜乃ちゃんから見て斜め前に行こうとする、そこに竜乃ちゃんがパスをリターンする……」
「壁みたいに跳ね返すってことか」
「すごく簡単に言うとそうだね」
「相手に読まれ易いんじゃねーか、それ?」
「そうだね。だからタイミングとスピードが重要になってくるよ、出来ればトラップせずにワンタッチが理想だけど……まあカットされても良いからどんどんトライしていこう!」
「おう、分かったぜ!」
すると、莉沙ちゃんが尋ねてきた。
「聖良とポジションチェンジしてみても良いか?」
「ああ、その辺は臨機応変に。二人に任せるよ。じゃあ、3本目も頑張ろう!」
<紅組ベンチ>
「驚いたな、龍波のやつ、もうポストプレーが出来てきているじゃないか」
永江がそう呟くと、隣で水を飲む緑川が答える。
「まるでスポンジですね……どんどん技術を吸収している」
「おさげちゃんも含めて三人で連動されるとちょっと厄介かもー」
そう言って、両手で三角形を作る池田。緑川は少し考えて武に話し掛ける。
「秋魚、ちょっと……」
「ん? なんや?」
小嶋が笛を吹く。3本目の開始である。
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