ヤンデレor変態~ここは恋愛お悩み相談室じゃねえ~
瀬川
第1話 高校生にもなれば考え方がピュアじゃない
「合法的に監禁するには、どうしたらいいのかなー?」
「監禁している時点で犯罪だ」
「えー。相手が受け入れてくれれば?」
「受け入れてるって言うけど、それ完全に洗脳してるだろ」
「あはは、バレたー?」
俺は懐から煙草を取り出そうとして、ここでは吸えないと舌打ちしながら戻した。
「バレたー、じゃねえ。どうすれば監禁するなんて話になるんだよ」
「だって姫ちゃんの周りって、人が多すぎるんだもん。独り占めしたくなっても不思議じゃなくない?」
「男がもんって使うな。気持ち悪い」
「気持ち悪いって、うさちゃん先生酷ーい」
「うさちゃん先生って呼ぶな。何回もそう言ってるよな。お前の頭は鳥頭か?」
「だって、似合わな過ぎて面白いんだもん。うさぎって。かーわいい。あは」
俺は目の前で笑っているチャラい顔を、本気で殴りたくなった。
♢♢♢
いくら就職活動が難航していたとはいえ、ここを選んだのは間違いだったか。
朝や昼休み、放課後になるたびに、俺はいつも思う。
俺、
それは就活している時まで、時間を遡らなくてはならない。
ろくな経歴を歩まず、顔面も子供に泣かれるレベルな凶悪のせいで、どこに面接を受けても不採用だった。
さすがに無職はまずいと切羽詰まっていた時に、昔の知り合いが俺に手を差し伸べてくれた。
その人はとある学園を経営していて、養護教諭に空きが出てしまったから、代わりに入らないかと俺に言ってきた。
学生時代に色々な資格をとっていた中に、なんともまあ都合がいいことに養護教諭を出来るものもあった。
雇用の条件が良かったこともあり、俺はその話に飛びついた。
そういうわけで今の俺の職場は消毒の匂いが充満した、ほぼ白色で埋め尽くされた保健室である。
私立青薔薇学園は名前からなんとなく察することが出来るが、お金持ちか能力のある者しか通えないような、超一流の男子校だ。
幼少期から英才教育を受けているし、高校生だから俺の手を煩わせることはないだろう。
出来る限り面倒なことはしたくないから、実は楽な仕事を期待していた。
しかし現実はどうだ。
何が楽しいのか分からないが、暇な時間があると毎日のように人が来る。
そして何故か俺に、相談をしてくるのだ。
ただでさえ俺はそういう聞き役に向いていないのに、その内容が恋愛となれば更に面倒である。
でも仕事だから我慢して話を聞いているのだが、段々とこのまま聞いていてもいいのかと思うようになった。
示し合わせているのかと疑ってしまうぐらい、相談の内容がおかしい。
来る奴来る奴みんながそうだから、本気で病院に行かせようかと手配しようとしたレベルだ。
入学の条件に容姿が組み込まれているのではないかという美形が多いが、それでも俺は声を大にして言いたい。
いくら美形だからって、許されることと許されないことがある。
そしてこれは、絶対に許されるレベルの話じゃない。
この学園にはヤンデレか変態しかいない。
数日色々と話を聞いてきて、俺が導き出した答えがこれだ。
少し話が変わるが、この学園には姫と呼ばれる生徒がいる。
それが本名なのかあだ名なのか、どちらにしても男につける名前ではない。
そしてその生徒は傾国と呼ばれるのではないかというぐらい、たくさんの人間を魅了しているようなのだ。
俺の元に相談してくる大半が、姫関連。いや、全部かもしれない。
それぐらい好かれていて、そしてその好かれ方が異常だった。
先ほど言ったように、ヤンデレか変態しかいない。
どうしてそうなるんだと小一時間問い詰めたいが、それはそれで電波な答えが返ってきそうなので、俺の精神を安定させるために今のところ実行していない。
というか特別手当でももらえない限りは、やる気が無い。
そんなヤンデレと変態の中にも、特に危険なのが五人いる。
相談してくる内容が、基本的に犯罪。まだ実行していないから多めに見ているが、その内警察のお世話になるかもしれない奴らだ。
その内の一人が、今俺の目の前で相談している生徒である。
名前は
見た目は完全なチャラ男だ。
肩まで伸ばしている髪をハーフアップにしていて、口調はゆるゆるで常に笑顔を絶やさない。
誰に対しても人懐っこく、そのせいかいつも人が周りにいるイメージなのだが、教師陣からは要注意人物として知られている。
初めは喧嘩も弱そうだし、特に注意するような奴だとは思わなかったけど、ある日相談された内容で考えが変わった。
「人を監禁するのに必要なものって何かなー?」
監禁という言葉の強さにも引いたが、何よりもツッコミたかったのは、どうしてそれを俺に相談してきたのかだ。
俺が誰かを監禁したことがあるように見えたのだろうか。もしそうだとしたら、やはり拳で語り合う必要がある。
どうやらこの隠村という生徒は、恋をするとその人のことを閉じ込めてしまいたい性癖のようだ。
どこかに部屋を借り、自分だけしか入れないようにして、衣食住の全てを管理する。
監禁のプランを詳細に語られた時は、さすがに通報するべきか本気で迷った。
今のところまだ救いなのは、相手の同意を得られない限りは閉じ込めるのは可哀想だと理性が働いているところだ。
でもそんな理性なんて細くて切れやすいから、こうして話をさせてガス抜きをするしかない。
「うさちゃん先生が来てくれて良かったー。顔は怖いけどちゃんと話を聞いてくれるから、つい何でも話しちゃう」
「俺としては犯罪の片棒を担ぎたくないから、さっさとまともになってもらいたいんだけどな」
「何言ってるのー。俺はまともだよ? 好きな人を閉じ込めたいと思うのは、普通のことでしょー?」
「それが普通のことなら、この世界は狂ってる」
「あははー。辛辣ー」
話は聞いてやっているが、それ以上のことはしていない。
それなのに何がいいのか、ほぼ毎日のように来るのだから、若いやつの考えていることは分からない。
今だって冷たく接しているのに、けたけたと楽しそうに笑っている。
でも要注意人物と言われるだけあって、その目は底が見えなかった。
「もう今日は満足しただろ。さっさと帰って勉強して寝ろ」
「えー。もうちょっと話したかったのにー。ま、明日また来るから、今日は大人しく帰ってあげるよー」
「別に二度と来なくても構わないんだけどな」
「本当にうさちゃん先生って、優しくないよねー」
決められた時間以上に働くつもりは無い。
だから時計を見て、もうすぐ終業時間なのを確認すると、雑に帰るように促す。
たまにごねられることはあるが基本的には素直に帰ってくれるので、今のところ実力行使に出たことは無い。
「じゃあねー」
「気をつけて帰れよ」
「心配してくれるの?」
「いや。お前の身は心配してない。帰るまでに何もやらかすなよ」
「うわ。俺信用ないじゃーん。あはは」
当たり前だろう。
どこの世界に、監禁したがるようなやつを信用する馬鹿がいるのか。
学校のすぐ隣にある寮までの道のりでさえ何かを起こしそうなので、俺に面倒がかからないようにと釘を刺せば何がおかしいのかまた声を出して笑った。
「ばいばーい」
軽く手を振る後ろ姿を見送りながら、今日も疲れたと俺は大きく息を吐いた。
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