廻る世界で

MOTO

プロローグ


「人は飽きる生き物である」


 人は満たされない欲求を求め続ける。日常から脱却し非日常を望む者も多いだろう。だが、非日常も時が経てばただの日常となりさがりその渇きはとどまることを知らない、、




「...よし、これで起動すれば上手くいく筈だ」


 俺は独りある目的の為、長年研究していた魔法術式の起動準備をしていた。


 薄暗い部屋の中で、術式の上に仰向けになりながら起動に必要な呪文を詠唱し術式を起動する。


「長かった…これでやっと俺はこの無駄に長い人生を終えることができる。そして来世はごく平凡なありきたりな人生を....」


 起動した術式から漏れる眩い光とともに何層もの魔法陣が浮かび上がる。薄れゆく意識の中、来世への期待を胸に、やがて意識は沈んでいった。


 ―――――――――――――――――


  俺はもともと地球にある日本で九頭見 太郎くずみ たろうという名の男として生まれ育った。


 背が180cmと少し高いこと以外そこらへんにいる平凡な可も不可もない人生を送っている一般人にすぎなかった。


 そんなある日大学の講義が全て終わり、帰宅途中の信号待ちしている時いつのまにか俺は知らない場所に独り立っていた。


 なんの前触れもなく瞬きをした瞬間タロウの目には何処かもわからない、ただどこまでも続いてるような広大な大地が映っていた。


 ただの夢か幻かとも思ったがここがタロウがいた世界とは違う異世界のようなものだと認識するのにそう時間はかからなかった。


 そこからはまず此処がどんな世界なのか、情報を集めながら数日かけ最初の街を見つけそこで生活基盤を整えていった。


 やはりこの世界は魔物という存在もあるらしく、魔王や勇者などもいるのだそうだ。他にも人間以外の獣人やエルフを初めて見たときはとても感動した。


 俺は日本にいた時からライトノベルやアニメが好きだったので、あのどこでもあるような日常からこんな世界に来れたのは単純に嬉しかった。


 この世界には思ってた通り冒険者という職業があるらしく、迷うことなく冒険者になった。


 なったはいいものの待っていたのは、タロウが夢みるような異世界生活ではなく、すぐに地獄のような毎日だった。




 ところで、この世界には俗に言う【スキル】というものが存在する。スキルはその人の才能のようなものだ。「才能」といっても言葉の通りの単純な意味ではない。空を飛ベる人もいれば、火を起こしたり、怪我を治せる人もいる。このようにスキルは種族間関わらずその生活に多大な恩恵を与えている。



この世界には何百年に一人くらいの頻度で異世界から迷い込んでくる人がいるそうで、今回現れたのがタロウだったわけだ。



この世界の住人のスキルは一人一つが普通だ。しかし異世界から来たものは皆一般的なスキルとは違う特別なスキルを持ち、しかもスキルを複数持つものが多い。


 そこで、肝心の俺のスキルだが【不老不死】というものだけだった。この一つしかなかったが、当初このスキルの能力を理解した時は驚きと同時にかなり浮かれていた。


 しかし、そんな感情もすぐに消えていった。老いもしなければ死にもしない強力なスキルであるのは間違いない。


 だがタロウ自身、これまでただの一般人だったのだ。そしてこの世界基準で俺の力は小さな子供とそう変わらなかった。


 さらに、黒髪黒眼のタロウの容姿はこの世界の人には不吉の象徴のような者らしく気味悪がれ、冒険者としてしか働けず、しばらく厳しい生活を強いられた。


 そんな中、タロウにもいつしか愛する人ができた。その人のためにと努力し、簡単な依頼をこなしながら少しずつだが成長して、依頼の難易度も上がっていった。


 そんな生活の中でタロウは小さな幸せを噛み締めていた。


 しかし、そんな幸せが長く続くことはなかった。



 


 死んだ。死んでしまった。こんな俺にも愛してる、と言ってくれた最愛の人が死んだ。いや、殺されてしまった。


 魔王の軍勢だった。なんの前触れもなく襲って来た魔王軍に街は蹂躙され、そして最愛の人は殺された。


 何もできなかった。俺の力じゃ何もできやしなかった。


タロウの身体もぐちゃぐちゃに破壊され、そのまま気を失った。




 それからどれくらい経ったのだろうか、いつのまにかタロウは目覚めていた。


目覚めてしまった。


 意識を取り戻した時にはもう魔王軍の姿はどこにも見当たらなく、街は火の海、そして大量の死体が転がっていた。


 そして、すぐ近くには目の光を失った最愛の人の冷たくなった身体が転がっていた。


 生き残ってしまった。この街で一人だけ。生き残りたくなんてなかった。俺だけ生き残っても意味なんてない。


 タロウは泣いた。獣のような声で泣き続けた。もう涙が出なくなってきた頃、タロウの中はどす黒いなにかで溢れていた。


憎んだ。魔王軍をこの理不尽を、死ねないこの身体を、何もできなかった無力な自分を。


 そこからはもうあまり覚えていない。ただタロウはこの呪われたような身体で闘った。闘い続けた。


 毎日朝から夜まで寝る間もなく身体を鍛え、魔力を高め、技術を磨き、身体を真っ赤に染めない日はなかった。それはあの日を思い出したくないからなのか、己の無力を許せないからなのか。そのあり方はまさに修羅そのものだった、、




 一分一秒も無駄にはしない。


 強くなるために....いや、死に場所を求めていたのかもしれない。


 だがそれで死ねるはずもなく。


 それから―

 何年?何十年?それとも何百年?

わからない。しかし いつのまにかタロウの周りに敵はいなくなっていた。


 ついにタロウは魔王城に向かった。道中の魔物や四天とかいう魔王の側近を皆、視界に映ったそばから腕の一振りで消しとばしていった。


 その余波で森だった場所もいっしょに跡形もなく消し飛んだ。


魔王城に侵入し魔王のもとまで向かった。


城の最奥で魔王を見つけるたタロウ。タロウを視界に捉えた魔王はきみの悪い笑みを浮かべていた。


「きm」


瞬きの間に魔王の視界からタロウの姿は搔き消え、魔王の横に姿を現した俺はビンタを一発入れると魔王は一言も発することができずにその上半身を消失させた。その衝撃で城を抉り、外の遥か遠くまで自然が破壊されていた。


タロウの目には魔王だったモノが写っていたが何も感じなかった。こんなにもあっけなく終わってしまった。



それからタロウは静かにその場を去ることにした。



 ―――それからまたどれくらい経ったのだろう。少なくとも千年過ぎたあたりから数えなくなった。


 その間にいろんなことがあった。どこかの国で勇者にされ英雄になったり、たまに湧いてくる魔王を秒で消したり、戦争にも参加した。


 また愛する女性ができ結婚をし、子供もできた。そして時が経ち、自分よりも先に老いていく妻や我が子を看取ったりもした。


 愛する者たちと一緒に逝けないのは辛く、胸が痛くて耐えられなかった。


 しばらく独りで旅にも出てみたりもした。世界を回る中で沢山の人との出会いや別れ。その中にはいい人もいたし、悪人も沢山いた。


 旅を終えたある時タロウは自分の変化に気づいた。 感情の起伏が少なくなっていたのだ。原因は分からなかった。


 何千年も生きてしまったからなのか、それともスキル自体の副作用的なものなのか。


 まあ、でもあまり気にはしなかった。でも疲れた。

その時タロウは新しく人生をやり直したい。普通に生きてみたい。それなりに楽しい、限りある人生を生き直したいと思った。


  早速俺は行動に起こした。そこからは長く、何百年も森に建てた家に引きこもりながら研究して、ついに転生の為の魔法を完成させた。


 そして――


「おぎゃーー!!」


 俺...いや、私の新たな人生が始まる。

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