第59話 今の私はアース様が誇れるようになっているのでしょうか?

「それで、やっぱりカタリナ様の想い出の相手ってアースきゅんだったんだ?」


 あれから、カタリナを伴って部屋を出たアースは食堂へと向かった。


 そこでは、不機嫌そうな顔をしたリーンとラケシス。愉快そうな顔をしたベーアとケイがいた。


「はい、そうなんです。まさかこんな場所で会えるなんて思わなかったです」


 アースが椅子に座ると、カタリナはその隣に腰かけた。


「アース、ちょっと近いわよっ!」


 あからさまに不機嫌な様子のラケシスが睨みつけてくる。


「って、僕に言われても……」


 何故か目が覚めたらカタリナがいたので、アースは現状を把握していない。


 横を向くと幸せそうな顔をしたカタリナと目が合った。


「それで、アース様。どうして倒れられていたのですか?」


 カタリナは首を傾げるとアースに質問をした。


「ああ、そういえば僕気が付いたらベッドの中だったんだ?」


 アパートの入り口まで戻ってきたのは覚えていたアースだったが、その後の記憶がなかった。


「アースきゅんが過労と魔力欠乏症で倒れたってカタリナ様が言ってたよ?」


「も、もしかして私が原因なの?」


 リーンとラケシスが心配そうな声を出しアースを見る。


「ああ、そのせいか……。いえ、たいしたことはないんですけど、ちょっと魔力を使いすぎたみたいです」


 アースは早朝から隣町に出かけていた。その理由は以前テロに巻き込まれた治療院の治癒士が火傷を負ったことに起因する。


 聞くところによると、アースが病床にいると思った治癒士の女の子が火事の現場に飛び込み、顔に一生消えない火傷を負ったらしく、その火傷を治すためにアースはリバイブポーションを作っていたのだ。


 最後に魔力を込め完成させたリバイブポーションを治療院で渡してきたのアースだったが、製作までの疲労と魔力が枯渇したせいもあり戻ってくるなり気絶したわけだ。


「あまり、無理はしないでくださいね。昔だって私が止めても無茶ばかりしていたじゃないですか」


「そ、そうだっけ?」


 昔と同じことを繰り返しているせいか、アースはカタリナの心配そうな表情を見ると顔を逸らした。


「そういえば、何でここにカタリナがいるの?」


 起きたときにはベッドに横たわっていたのだが、本人から説明をされていなかったのでアースは質問をした。


「リーンちゃんたちがここ数日護衛をしていたのがカタリナ様だからだよ」


「えっ? でも、リーンさんたちは要人の護衛をしていたんですよね?」


 アースは依頼内容を思い出すと首を傾げた。


「別に間違っちゃいないぞ。カタリナ様は聖女だからな」


「聖女っ!? カタリナが?」


 ケイの言葉に驚いたアースはまじまじとカタリナを見てしまう。


「そんなに見つめられると恥ずかしいです、アース様」


 頬を赤らめるとカタリナは視線を逸らした。


「いや、でも……本当に?」


 アースとカタリナが別れてから4年以上経過している。


 アースのリバイブポーションにより救われたカタリナは、アースのように人々を救いたいと想い、治癒士としての腕を磨いた。


「今の私は聖女と呼ばれるほどに治癒魔法を扱えるようになりました」


 カタリナは真剣な表情をアースに向けると胸元に手をやると、


「今の私はアース様が誇れるようになっているのでしょうか?」


 カタリナは瞳を潤ませ憧れの人物に問いかける。


「もちろんだよ。まさかあのカタリナが聖女様だなんて。月日が経つのは早いもんだね」


 かつて自分が癒した女の子が立派に成長して目の前に現れた。アースはそれが嬉しくてカタリナに笑いかけた。


「うんうん、良かったね。アースきゅん。カタリナ様」


「本当にね。これでカタリナも探していた人が見つかったってことよね」


 カタリナから想いを聞かされていたリーンとラケシスも暖かい目で二人を見守っていた。


「とにかく聖女様ということにも驚いたけど、カタリナが元気でいてくれたのが何よりもうれしいよ」


 次の瞬間、カタリナの目から涙が零れ落ちる。


「カタリナ?」


 カタリナはアースに近付くと胸に顔を埋め泣き始めた。


「私、頑張ったんです。アース様に認めてもらいたくて、頑張ったんですよっ!」


 泣きじゃくるカタリナ。アースはカタリナの頭に手を乗せ撫でると、


「うん。僕はカタリナを誇りに思うよ」


 笑顔を向けるのだった。




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