第53話 カタリナの過去②
「えっと、君大丈夫?」
男の子たちが去ると少年は私の方を向いた。
「ひぅっ!」
「あっ、ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだけど」
私が怯えているのをみて彼は優しい笑顔を向けてくる。その笑顔を見た私は警戒をしながら目の前の男の子に質問をした。
「私のこと、虐めないの?」
「虐める? なんで僕がそんなことすると思ったの?」
目の前の男の子はキョトンとすると首を傾げた。
「だって、私……化物だし」
言っていて目から涙があふれる。自分を醜い化物と認めてしまったから。何より折角助けてくれた男の子に先程の男の子たちみたいな目で見られたくない。
私は最悪の想像に恐怖していると男の子は言った。
「君のどこが化物なのさ?」
「えっ?」
その言葉に私は固まってしまう。これまでそんなことを言った人間はいなかったからだ。
「そ、そんなの……見ればわかるじゃないですかっ! この痣ですよ!」
全身の半分を覆う醜い痣。これのせいで周囲の人間は気味悪がって私を避けていた。
「そんな痣ぐらいなんなのさ」
「そんなって何ですかっ! あなたにとってはそんなでも私にとっては人生を諦めなきゃいけないぐらい重要なことなんです!」
私は思わず男の子に言い返してしまった。
いじめっ子たちから助けてくれた恩人なのに。私の八つ当たりだというのに……。
「ごめん、確かに今のは僕の言葉が悪かった。でも、僕はそんな痣を本当に気にしていないから」
他の人とは違う優しい目が私を見ている。心臓が高鳴った。身体が熱くなり落ち着かない。
「どうしたの? もしかして怪我が痛む?」
そう言って手を伸ばしてくる。普通の人間なら気味悪がって触れようともしない私に彼は触れようとしたのだ。
「っ!?」
思わず弾かれるように距離を取ってしまった。なぜだかわからないが、このまま触れられたら自分がどうにかなってしまいそうだと直感したのだ。
「わ、私もう行きますっ!」
これ以上彼と関わっているとおかしくなる。私はそう考えてその場を離れようとすると。
「あっ、せめてこれ飲んでよ」
そういうと彼は私の手を掴み何かを強引に渡してきた。
「これは?」
「回復ポーションだよ」
「わ、悪いですよそんなの!」
回復ポーションといえば冒険者が愛用しているアイテムだ。
仕事柄不意の怪我にみまわれることの多い冒険者は冒険の際に回復ポーションを用意する。
命が掛かっているだけあって回復ポーションはそれなりの値段がするのは常識だった。
「自作だから売り物にできないんだ。そのぐらいの怪我なら治せるはずだから良かったら使ってよ」
私が返そうとすると彼はそう言って断った。
「それじゃあ、僕は行くね」
彼はそう言うと手を振って歩いていく。
「あっ……」
何気なく手を伸ばして彼の背中を見つめてしまう。私は彼がその場から立ち去るまで動くことができなかった。
★
「なにそれっ! そんな奴ら燃やしてやりたいわね」
ラケシスが激高している。
現在三人はアパートの食堂でお茶をしていたのだが、カタリナが過去を語っていたからだ。
「まあまあラケちん落ち着いて。そのいじめっ子たちには不幸になる呪いをかけるとして。カタリナ様にそんな過去があったことに驚いたなぁ」
美しく誰もが恨まむプロポーション。しかも聖女としての肩書を持っている。
そんなカタリナにそんな不幸な過去があったなどにわかには信じがたかった。
「長く生きていれば不幸な人生なんてある程度あるわよ」
ラケシスは最近まで魔力の暴走が怖くて他人の近くにいられなかった。
「私だって、あいつに出会わなかったら今でも一人で行動していたに違いないわ」
自分から孤独の原因を取り払ってくれたアースをラケシスは思い浮かべる。
「ラケちんもね、昔は本当に冷たかったもんね。今じゃこんなに落ち着いたけどさ」
「リーン? 余計なこと言うと怒るわよ?」
からかいの言葉を口にしたリーンをラケシスは睨みつけた。そのやり取りから二人の仲の良さを知ったカタリナは口元に手を当てて微笑む。
「ふふふ、ラケシスさんのお話も聞きたいですね」
これほどの女性を変えてしまうような相手にカタリナは興味がわいた。
「ん。まあ機会があれば紹介してあげるわよ」
ラケシスは頬を赤くするとそう言った。
「それより、その話と虹薔薇がどうかかわってくるわけ?」
「そうだよ! そもそもその男の子とはどうなったの?」
二人はカタリナに話の続きをせびる。カタリナはお茶を一口飲むと、懐かしさと温かさの混ざった表情をすると話を再開するのだった。
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