第50話 アースきゅんが寂しがってると思って切り上げてきたよ

 アパートのドアを開けると良い匂いが漂ってくる。

 リーンは鼻をひくつかせ幸せそうな顔をすると、


「うわぁ、凄い美味しそうな匂い。流石はアースきゅん。愛の力で私たちが帰ってくるのがわかったんだね」


 リーンが目を輝かせ都合の良い解釈をしていると、ドアが開く音が聞こえたのか奥からアースが現れた。


「ケイさんとリーンさんお帰りなさい。予定よりも早く戻ってきましたね」


 アースは二人の姿を見つけるとエプロンを身に着けミトンを手に嵌めたままの姿でケイとリーンに近づいた。


「えへへへ。アースきゅんが寂しがってると思って切り上げてきたよ」


 目の前に立つアースにリーンはピースをしてみせた。


「えっ? 本当なんですか?」


 アースはリーンの言葉を真に受けると目を丸くするのだが、


「元々こういう護衛の仕事は日程に余裕をもたせるものなんだよ。とりあえず無事に護衛を終えて帰ってきたぞ」


「なんだ、リーンさんの冗談ですか。驚かせないでくださいよ」


 ケイの説明にアースは溜息を吐くとリーンを白い目で見る。


「でも、アースきゅんに会いたかったのは本当だからねっ!」


 アースから呆れられているのだが、リーンは満面の笑みを浮かべて言い募る。その笑顔から本心で言っているのがアースにもわかった。


「はいはい。僕も二人が早く戻ってきてくれて嬉しいですよ」


 適当な態度であしらうアースだが、その暖かい言葉にリーンは驚く。


「あ、アースきゅんがデレた!?」


 驚くリーンにアースは口元を緩めてみせる。なんだかんだでリーンとのふざけたやり取りも楽しいと感じているのだ。

 気を良くしたリーンはアースとの距離を詰めると覗き込むように瞳を合わせる。


「ところでアースきゅん。何を作っているのかな?」


 その瞳は一刻も早くアースの料理を食べたいと語っている。アースはそんなリーンを微笑ましく見ると。


「二週間熟成させた肉を使ったミートパイですよ」


 自信満々に作っている料理の内容を告げた。


「食べたいっ!」


「はいはい。それじゃあ手洗いうがいをしてきてくださいね」


「わかったっ!」


 そう言って荷物をその場に置き去りにして洗面所へと駆けていくリーン。

 アースはミトンを外すとリーンの荷物を回収するのだが……。


「なんか悪いな。戻ってきて早々にドタバタしてしまって」


「いえいえ、僕も二人がいない間寂しかったので。こうして戻ってきて元気な姿を見せてくれるのは嬉しいんですよ」


「その言葉、リーンに聞かせたら今の十倍はうるさくなりそうだな」


 アースの言葉にケイも頬を緩ませる。


「なのでリーンさんには内緒にしておいてくださいね」


 アースは口元に人差し指を立てると秘密の共有をケイにもちかけた。そして……。


「今日のミートパイは自信作なのでケイさんも荷物を置いたら食堂にきてくださいね」


 アースは階段を上るとリーンの部屋に荷物を置きにいくのだった。






「えっ? アースきゅん明日はいないの?」


 ミートパイを食べながらリーンは来客の話をしていると、アースから思いもよらぬ答えが返ってきた。


「ええ、明日はログハウスの方に張り付かなければならないんですよ」


 現在仕上げているリバイブポーションの製造過程が終わりに迫っているので、慎重を期しておきたいのだ。


「その代わり来客の料理はあらかじめ作っておきますので、そちらを出してもらえれば大丈夫かと思います」


 家事に関してはオートマターを使っているのだが、当日は隠しておこうとアースは考える。

 一見するとただのオートマターに見えなくもないのだが、使っている魔法陣はアース特製で極秘だし、命令に対し臨機応変に答えている姿を見られたら疑いをもたれるからだ。


「そっかぁ。せっかくアースきゅんを紹介しようと思ってたんだけど。残念だなぁ」


 ミートパイを口にしながらリーンは自分のアテが外れたことをぼやくのだった。

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