第47話 えっ? ラケちんと知り合いだったの?
目の前では装置が音を立てて動いている。
精密に加工された歯車は完璧に噛みあっていて一定のリズムで動いている。
魔力によって動くこの装置はアースが今回特別に組み上げた魔導具だ。
「よし、稼働は問題ない。あとはこのまま3日かき混ぜ続ければほぼ完成だな」
透明な容器の中を複数のヘラが交互に動き液体をかき混ぜている。中に入っている液体は虹薔薇を絞り出したものだ。
アースは約1ヶ月程かけて虹薔薇を採集しこの液体を抽出した。
しかもただ抽出するだけではない。途中にレア鉱石と呼ばれる【星屑】。レア植物から採れる【月粉】。そして、超高温でなければ溶けない【陽楼】をサンドして濾過してあるのだ。
これらを通すことで虹薔薇には自動的にそれぞれの成分が付与される。
だが、この装置を作るにしてもそれぞれのバランスやら加工が必要になる。
単体での加工なら腕の良い技術者ができなくはないが、すべてとなるとできる人間は他にいない。そもそもリバイブポーションを作るという前提がこの世界の人間にはない。
部位欠損を修復してくれるリバイブポーションはダンジョンドロップされる超希少アイテム。レシピは錬金術ギルドに保管されているが、前提となる材料の入手から装置に至るまでが手に入らない。
アースのように生産関係全てに精通でもしていなければかなり大規模な計画が必要になる。
「それにしても我ながら良い装置を作ったもんだ。前の時もこれがあれば随分楽だったんだけどね……」
これから3日間休むことなく魔導具は可動を続ける。それというのも、この最終工程で一度でも手を止めてしまえば液体は均等に混ざり合わず失敗してしまうからだ。
「他の人に任せられなかったし、本当に地獄だったよ」
アースは過去にリバイブポーションを作った時を思い出す。
今回ほどの量を確保できなかった上、腕前も未熟だったせいで1週間ぐらい寝ないで作るはめになったのだ。
今回はその時の失敗を踏まえて行動しているので以前よりも高品質のポーションを作ることができるだろう。
「さて、アパートの方は【マリベル】に任せておけばいいから他のアイテムでも作っておくか」
ケイとリーンは護衛の仕事で空けており、ベーアはいつものように山籠もりでここではない違う場所へ行っている。
ラケシスはアースをログハウスに送って何処かへと行ったが、晩飯の用意をするように言いつけたので夜には戻ってくる予定だ。
そんな訳で、アパートの住人に専念する必要がないアースは作業へと没頭していくのだった。
★
「えっ? ラケちんと知り合いだったの?」
焚火を囲みながらカタリナとリーンが話をしている。
「ええ、私も偶然に驚きました」
現在。ケイとリーンのパーティーは聖女であるカタリナを隣街まで護衛する仕事をしている。
今日は移動を終え、途中にある野営広場で休んでいるところだ。
晩飯を作り、食べていたところ雇い主であるカタリナが隣に座り話し掛けてきたのだ。
「確かに、依頼主を絶対に守れって言ってたけど、もう少し詳しく教えてくれてもいいのに」
リーンは言葉足らずな親友を思い出すと愚痴を言う。
「あははは、ラケシスさんらしいですよね」
口に手を当てて上品に笑うカタリナ。
「それにしても聖女様って聞いてたから緊張してたけど、案外話しやすいんだね」
「リーン。その言い方は失礼すぎるぞ」
ケイは眉をひそめるとリーンを嗜めた。
仮にも雇い主な上、神殿でも高貴な身分の相手なのだ。機嫌を損ねればこの先不利益が降りかかりかねない。
「いいんですよ。私もこの身分はガラじゃないと思っていますので」
「そうなの? でも、流石聖女様ってだけあって凄い美人さんだよね」
「そこは同意だな」
リーンの言葉に全員が頷く。ラケシスとは別方向の清楚な雰囲気は保護欲を掻き立てられる。
事実、男性陣はその笑顔に浮かれていた。
「フフフ、ありがとうございます。私、リーンさんも可愛いと思いますよ」
「えー、本当かなぁ? だってリーンちゃんモテないもん」
「それは、相手の人が気後れしているだけではないでしょうか? このパーティーの方ですかね?」
カタリナも年頃の乙女なので他人の色恋には興味がある。遠慮がちに聞いてみるのだが……。
「ううん、こんな粗暴な冒険者じゃなくてね。もっとこう生意気な弟みたな子なんだけどさ。リーンがいくら言い寄っても反応が薄いの」
「それは、恐らく照れているだけですよ。仮にも男の人ならリーンさんぐらい可愛い人に言い寄られて悪い気がしないはずですよ」
「聖女様にそう言われてもなぁ……」
何せ身体つきからして違うのだ。もし仮にアースが自分とカタリナを並べてみたらどちらを選ぶのかリーンには想像がつく。
そんな恨めしそうな目でカタリナを見ていると……。
「聖女様。このような場所におられずに馬車へとお戻りください」
「あ、ごめんなさい」
現れたのは神殿から派遣されてきた神官。カタリナよりも一回り年上で顔に皺が寄っている。
鋭い目付きをしており、その表情からケイたち蔑むような印象があった。
「それでは皆さん。明日からも宜しくお願いしますね」
そう言って馬車へと戻って行くカタリナ。
リーンたちは何気なく食事を再開するのだが……。
「なんか、嫌な感じだね」
先程神官が消えて行った馬車をみると誰かが呟いた。
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