第13話 直しておきましたよ?
「これが……【ゲイホルクン】だと?」
ベーアは槍を持ってくると恐る恐るテーブルに置いた。
これまでの自分の嗜好がこの槍によって歪められたものだと聞かされたからだ。
「古代文明のアーティファクトには威力の代償に所有者に呪いをかけるアイテムがあるんです。これはそれに間違いありません」
「どうしてそう言い切れるのだ?」
ベーアの質問に。
「ベーアさんがゲイに目覚めた時期とこの槍を所有した時期がほぼ一致していますし。それまでは男に一切興味がなかったのに突然好きになるのは不自然ですから」
アースの【鑑定マスター】のスキルが発動しているので疑う余地はない。ベーアはこの槍によって嗜好を歪められているのだ。
「そうすると、この槍を手放せばワシは元に戻ることが出来るということか?」
「やったじゃないかベーア師範」
「これで真っ当な人生を歩めるようになるんだね」
ケイとリーンが嬉しそうにベーアに話し掛ける。だが…………。
「できぬ」
「なんでさっ!」
「一体どうして?」
まさかの答えにリーンとケイは驚いた。
「この槍は仲間たちから贈られた大切な槍なのだ。仲間たちと離れてからもずっとこの槍はワシと共にあった。この槍がなければ死んでいた危険な場面がいくつもある」
たとえ呪いがかかっているからといって手放せない。ベーアはそう宣言する。
その気持ちはケイにもリーンにも伝わった。
一流冒険者の彼らだからこそ馴染んでいる武器の重要性は理解している。
仮に自分たちが持つ武器が良くない呪いを受けていると言われてもそう簡単に割り切れるものではないのだ。
「というわけでアース殿。せっかく教えていただいて申し訳ないのだが、ワシにはこいつを捨てることはできぬよ」
原因がはっきりしただけでも良かった。ベーアはそうアースに礼を言うと……。
「これ以上は迷惑を掛けることになる。ワシは明日にでもアパートを出ていくとしよう」
槍を持って立ち上がる。そんなベーアの様子を見ていたアースは…………。
「いや、別にその槍を捨てる必要ないですよ?」
「「「はっ?」」」
「その槍の効果は持ち主をゲイにすることで威力を上げる。アーティファクトの効果というのは簡単に変えられるものではありません」
「ならばどうする?」
「その槍を僕に預けてください。僕にはその槍の効果を調整できる人物にこころあたりがありますので1週間いただければ直せると思いますので」
「この槍を他人に託す……」
一時的にとはいえ槍を手放すことにベーアはためらいを覚えた。だが、目の前のアースの真剣な瞳を見ると自然と槍を差し出していた。
「どうかワシの槍を頼んだ」
「さて、早速やるとしようか」
数日後、全ての準備を整えたアースはレンタル工房を訪れると作業を開始した。
「まずはこの槍に呪いを刻み込んだ魔法陣を出してみよう」
槍の中心に飾られている赤い宝玉。これを傷つけないように取り外す。すると奥には金に輝く魔法陣があった。
「これだな、この魔法陣を弄ってやれば呪いの内容を書き換えることができる」
基本的に武器の効果はリスクを得ることで威力を上げることができる。
ゲイホルクンが使用者の認識を強烈に歪ませる呪いを代償に威力を上げているのなら、それを取り除くと威力が落ちることを意味する。
「ベーアさんががっかりするだろうし威力は落としたくないな……」
仲間から貰った大事な槍だと言っていた。ここで威力を落とすということは彼らの絆に傷をつけるということ。
「代償を本人に求めるから歪みがでるんだ。これを付与した人間は頭が固かったんだな」
アーティファクトを作り上げるからには才能は超一流なのだろうが、使用者の気持ちを考えられないのは二流の証。
「まずはこの効果を消去して、新たな付与を施す」
アースは【付与マスター】のスキルを使い呪いの効果を消し去った。そして…………。
「うん、これなら何も問題ないかな?」
改めて付与をしたゲイホルクンを【鑑定マスター】のスキルで見てみる。
そこには生まれ変わった新しい槍があるのだった。
「依頼されていた槍が戻ってきましたよ」
1週間後の夜。全員が揃ったところでアースは話を切り出した。
「ほ、本当なのかっ!」
ベーアはその朗報に席を立ちあがった。
アースは管理人室から槍を持ってきた。
「見たところ特に変わってないように見えるけど……」
ケイが疑念を口にする。アースの話を疑いたくはないが、ことがことだけに慎重に判断をするべきなのだ。
「はっ、これを預かっていたアースきゅんがもしかしてゲイになってるんじゃ……? そうだっ!」
何かを思いついたリーンはアースに抱き着くと頬をすりすりとしてみた。
「どうしたんですか。リーンさん?」
驚くものの特にリアクションがないアース。
「た、大変だっ! 私が抱き着いてるのに反応がない! アースきゅんがゲイになっちゃったよ!」
実際、内面では恥ずかしがっているのだが、アースがおくびにも出さないので疑惑を与えてしまった。
「大丈夫ですから。ゲイホルクンからはゲイになる呪いは解除してあります」
アースは改めて説明をする。
「しかし、そうなると代償がなくなったので威力が落ちてしまったのではないか?」
これまでゲイホルクンが無双たる威力を発揮できたのは呪いのお蔭だ、それが無くなってしまえばただの槍になる。ベーアはそう懸念した。
「大丈夫ですよ。代償を他に置き換えたので威力は変わってませんので」
「そんなことが可能なのか……?」
ケイが大きく目を見張る。
「もしかして今度は異様に性欲が高まるとかだったりして?」
もしそうなら様子見のためにしばらく槍を預かっていたアースがリーンに反応しないのが不自然になる。
「して、どのような代償があるのだ?」
ベーアは自分の槍がどのような代償に変化したのか確認する。今度こそ代償とうまく付き合っていかなければならない。そう考えたのだ。
「代償は使用者にではなく敵に対して与えるように調整がしてあります。今後この槍で攻撃した場合、そのダメージの一部がベーアさんの生命力に還元されるという代償ですね」
その言葉に3人は再び固まると……。
「それはもはや代償ではないのでは?」
明らかに威力が跳ね上がっている。攻撃してダメージを与えるたびに自身が回復する。そんな武器をマスタークラスの人間が装備したらそれこそ永久機関だ。
「敵モンスターに代償を押し付けている形ですからね。本来アーティファクトを名乗るのならこのぐらいの性能はあって然るべきなんですよ」
そこまで言うとアースはベーアをみた。気に入ってもらえるかどうか確証がなかったからだ。
ベーアはしばらく目をつむっている。そして何かを悟ったように目を開くと…………。
「この新生ゲイホルクン確かに受け取った。アース殿には多大なる感謝を」
そうお礼を言うと頭を下げるのだった。
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