第71話 えにっき

・イザホのメモ

https://kakuyomu.jp/shared_drafts/Zh3ArTBxeC8asovcWPeAySvyHNLEpmKS





 名前がフェルトペンで黒塗りされている、絵日記。

 ワタシはその絵日記の内容を、見てみることにした。




 黒塗りされているところは、名前だけではなかった。

 中身の日付の欄まで、黒塗りにされている……


 1ページ目は、白髪の女の子と、無造作ヘアーの男性の絵だった。


“×月×日

今日は久しぶりに、フジマルくんが遊びに来てくれた。

表の世界で探偵というお仕事が、やっとうまくいきそうなんだって。

明後日あさってまで滞在するから、なにして遊ぼうかな”




「……フジマルさん」


 思わず、マウと顔を合わせる。


 この絵に写っている男性は、フジマルさんだ。

 そして、隣の少女……この絵日記の所有者と思われる人物は……ワタシの頭部となった、白髪の少女だ……!!


 ワタシは、10年前の事件をよく知るために、鳥羽差市に引っ越してきた。

 その事件をよく知っている、被害者たちの関係者……左腕、左足、右足……今までワタシたちは、その関係者に会ってきた。


 そして、今はワタシの頭部になっている、身元不明の白髪の少女……


「今までボクたちと一緒に行動していたフジマルさんが……イザホの頭の少女と関係があったなんて……」


 どうして、今までそれを言ってくれなかったんだろう。

 現代の事件について何かを知っているのに、言わないまま姿を消した、中学生のリズさんと……同じように……




 次のページを、めくってみる。


 絵は、少女に顔を向かって楽しそうにしゃべっているフジマルさんの姿。

 そして、背景に並べられた、テントやコテージの絵だ。


“×月×日

フジマルくんは、表の世界で行われる、キャンプというものについて話してくれた。

自然の中、みんなで一緒に泊まって、楽しいことをするんだって。

私も行ってみたいって言ったら、フジマルくんが「なんとかしてみよう」って言ってくれた!”




「これって……10年前の事件のこと……だよね」


 なんとなく、知能の紋章の整理がついてきた。

 白髪の少女が身元不明である理由……それはきっと、鳥羽差市の裏側であるサバトの出身だったから……?

 まだはっきりとした証拠がないから、推測しかできない。




 さらに1ページ、めくってみる。


 次の絵は、目の中に星を輝かせる白髪の少女に、棒人間たちが輪を作って踊っている絵だ。


“×月×日

フジマルくんが、そのキャンプに携わる職員に話をしてくれて、途中からだけど私はフジマルくんの妹として参加することができるようになった!

本当はフジマルくんも参加する予定だったけど、仕事があるから行けないって。職員さんとの取引も、なるべく簡潔に済ませたぐらいだから。

キャンプは明日……本当に……楽しみだなあ……

私の愛するサバトの表で、お友達ができるから”




 キャンプは明日。


 そう、事件が起きた日……

 この日記は、事件の前日に書かれたものなんだ。




 ……次のページをめくってみる。


 絵は、白紙だった。なにも書かれていない。

 下の文字の形も、前までのページと違っている。


“×月×日

なぜだ。

なぜ死んだんだ。

なぜ死ぬ必要があったんだ。

なぜ誰からも悲しまれないまま、死んでしまうんだ。

なぜだ。なぜだ。なぜだ”




 次のページにも、絵は書かれていない。




“×月×日

フジマルのせいだ。

フジマルが誘わなかったら、死ぬことはなかった。

フジマルのせいだ。そうに違いない。

フジマルのせいだ。フジマルのせいだ。フジマルのせいだ”




 次のページも、絵は白紙。




“×月×日

フジマルは逃げた。罪から逃れるために。

いや、ヤツが罪を感じるはずはない。戻ってこないことがなによりの証拠。

追いかける必要はない。あいつには、絶望させてやる。おなじ目に会わせてやる。

絶望させてやる。絶望させてやる。絶望させてやる”




 次のページも、白紙。




“×月×日

候補が見つからない。

ヤツの仲間ではダメだ。仲間だけではダメだ。仲間もヤツの精神の支えだが、仲間だけでは全然満たされない。

もっと親しい者を。もっと親しい者を。もっと親しい者を”





 次のページ、白紙。




“×月×日

ヤツの大切な人間が見つかるまで、ずっと待ってやる。

それまでは、紋章の活用方法を模索しよう。ヤツがより絶望する方法を。

最近、他の黒魔術団も行っている……あの事件からはやった都市伝説に便乗して、人間をさらい、所有物にする……

それを活用しよう。そして、ヤツに報いを受けさせる日を待とう。

何年も。何年も。何年も”




 次のページは……




 暗闇だった。




 ところどころに白い隙間のある、




 鉛筆で塗りつぶしたような、暗闇だ。




「文字がぜんぜん違う……まるで、大きく年月がたったような……それでいて……退化している……」




“×月×日

おかねもちのおにいさんが、おもしろいこと、おしえてくれた。

すごいさくひんを、つくるために、にんげんをさがしているって。

みつけなきゃ。みつけなきゃ。みつけなきゃ”




 次も、暗闇。




“×月×日

ぼくのてしたが、すごいことを、おしえてくれた。

ふじまるのもとに、しんせきのむすめがくるって。

それも、じけんのしたいからうまれたおんなのこ。

ぴったりだ。

ぼくのおもいでの、おんなのこ。ぼくのおねえちゃんのかおをした、おんなのこ。

ふじまるのこうかいにふれる、おんなのこ。

そのいちぶ、つかまえなきゃ。

つかまえなきゃ。つかまえなきゃ。つかまえなきゃ”












 次は真っ白。



 その真ん中には、










“いますぐしね いざほ”




“ゆがんだかおでざんげしろ ふじまる”










 本文はなかった。










「!!」


 マウがいきなり背伸びをして、両耳を立てた!


「水をかき分ける音……! それも、シープルさんじゃない……! 明らかに、大人の背丈の人型だよ!!」


 それなら……シープルさんでなければ……


 白髪の少女が、こちらに向かっているんだ!!




 この部屋には、隠れる場所がない!!

 テーブルの下に隠れても、丸見えだ!!




 ワタシはマウを抱えて、奥の扉に駆けだした。









 扉の先は、同じように下水が広がっていた。


 だけど、奥に明かりが見える。 


 扉だ。ひとまず、あそこまで急ごう!




 ワタシはマウを抱えたまま、再び下水の中に入る。


 下水の深さは、ワタシの胸につきそうなほど。

 胸の中に抱えているマウなら、泳ぐ必要がありそう。溺れたら大変だから、抱えたまま進まないと。




 下水をかき分けて、進む。


 扉を目指して、そこに隠れられる場所があると信じて……











 !! 「!!」


 目の前に、円の形をした光が見えた!

 その光は、こちらに向かってくる!!




 ワタシはマウとともに、下水の中に身を沈めた。


 最初はマウは口から泡を出していたけど、すぐに息を止めてくれた。

 マウもあの光に照らされるとマズイと、わかっているみたい。




 もう、だいじょうぶかな?

 マウの顔色が悪くなってきたので、そろそろ上がる。




 光は、潜っていたワタシをとっくに過ぎて、後ろに向けられていた。




 その光は、懐中電灯の光。




 上を見上げると、金網の足場が。




 そして、そこに立っていたのは……




 懐中電灯を持った、黒いローブの人影……




 白髪の少女とともに行動していた、マネキンだ。





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