第1-25話 同人誌が売っている、と〇のあなに行ってみるの巻

「すごーい! 本がたくさん!」

五月の第二日曜日。

私はなー坊と、えーさん、吉永先輩と新田先輩、計四人と池袋のとある雑居ビルの階上に居た。

「こんなところで同人誌が売っているものなんですねぇ」

なー坊の言葉に、そうだよぉ、と新田先輩が明るく言う。

「ぱっと見では分からないでしょ」

うふふ、と笑う新田先輩。

私はその雑居ビルの中に広がっている景色を眺めた。

一見すると普通の本屋と同じように見える。だが、例えば、ビジネス書、実用書、雑誌……などで分けられるはずの棚が元ネタ別やキャラクターのカップリングなどで分けられているのが同人誌専門店ならではである。

そして売られている本が全体的にみんな薄いのも通常の本屋とは異なるところだ。

「えーと、一冊……え! 一二〇〇円!」

表紙は箔も入ってきらきらと綺麗だし、イラストもうまいけれど、厚さが少年ジ〇ンプの十分の一もしないぐらいの薄っぺらい本が五倍以上の価格であることに私は卒倒しそうになった。

「甘く見てたね。同人誌という奴を」

むむむ、となー坊が呻く。

「これじゃあちょっと手が届かないなあ」

えーさんが空を見上げる。

「立ち読みも出来ないようになってるし」

並べられている同人誌はみな、ぴしっと厳重にビニールパッケージングされている。

「おや、買わないのかい?」

本棚からひょこっと顔を出した新田先輩の言葉に私たち三人は顔を見合わせる。

「正直……予算オーバーと申しますか」

えーさんの正直な言葉にそうかあ、と新田先輩はちょっと考えるようなしぐさをする。

「と〇のあなは質の高い同人誌ばかりそろっているし、一冊だけでも、と思ったんだけどね。んじゃあ、作戦変更といくかな」

「作戦?」

作戦ってなんですか? と問おうとする前に新田先輩は吉永先輩に声をかけていた。

「悠里ー! 今日ミサトさん家行けるかな?」

「そうなると思ってたよ……」

ミサトさん? そうなると思ってた? と疑問符だらけになる私の頭の中をのぞいたかのように新田先輩はにやりと笑う。

「ミサトさんは悠里の叔母さんで、同人歴も長いの。晴海埠頭時代のコ〇ケを知っていて、ブラック会社に勤めながらしっかりと新刊を年二冊は出している猛者だよ」

吉永先輩はあんまり気乗りはしない様子でごそごそとバックから鍵を取り出した。

「ミサト叔母さんのマンションの部屋の合鍵を私が預かってる。出入りも自由、とは言われてるけれど、信頼あってのことだから、事情を連絡して了承をとるから待っててね」

「……ど、どういうことですか?」

「まあまあ、そちらは先輩に任せよ!」

察しのいいなー坊は笑いながら私にもたれかかる。

「それより池袋に来たもう一つの目的、忘れてない?」

「あっ」

池袋のフリマで私のイメチェンのためのものをいろいろ買おうと言っていたのだったっけ。


「菊ちゃんの改造計画、進めるよー!」

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